葉はお香と蚊やりに
南畝系の花 ハマゴウ
夏の海辺に気品ある紫色の花を咲かせるハマゴウ。
小さなくちびるを、
ツンツンと突き出したような花(唇形花)が枝の先に群がり咲く。
幹が長く横にはい。
枝は直立するか斜めに立ち上がる。
葉は卵形で、
にまいづつ向き合ってつき、
浦は白色を帯びる。
ハマナスが海岸低木の北方系の代表なら、
ハマゴウは南方系の代表である。
磯浜にも砂浜にも生えるが、
広い砂丘では、大きな群落となる。
佐渡で最も大きな群落は素浜にみられる。
素浜は、
羽茂地区亀脇集落と小木地区堂釜集落の間にある延長4キロ、
最大幅150㍍ぐらいの海岸砂丘。
この砂丘に茂るハマゴウ。
ハマゴウは、
砂に埋もれては、
新しい枝を上へと伸ばし、
埋もれないときは、
茎が砂の上をはう。
こうして砂が固定され、
長い年月をかけて、
しだいに砂山ができていく。
十数年前、
この砂浜には締めて立ったときの感激は、
今も忘れられない。
佐渡にもこんなにみごとな砂丘があったのか、と。
素浜に近い集落では、
ハマゴウの葉で「香」をつくり、
枝葉をいぶして「蚊やり」にしたものだという。
「盆になりゃ、
ここらのもんはみんなハマゴウをお香に使うたもんです。
盆前に葉をこいて、
干いて、
つぶいて一年に使うだけのお香はとったもんです。
今じゃあ若いもんは採らんが、
年寄りはあの香が良うて、
採りにくるもんがおります」(S52)と、
羽茂地区亀脇の葛西キミエさんが話してくれた。
また、
羽茂地区村山の関根さんは、
「ハマゴウは素浜に出りゃいくらでもある。
葉を採って干し、
石臼で粉にして香をつくる。
ツバキも春の彼岸過ぎに花を拾うて香にした。
香にして一番いいのはヒョウビだ。
ハマゴウは、
においがくどすぎる」(S52)と。
「夏、
蚊が出るようになると、
夕方どこの家でもハマゴウをいぶいたもんです。
昼間刈って生干せにしたのんを、
いろりでいぶすと蚊が逃げるちゅうて」(前記、葛西さんの話)。
ハマゴウの実は直径6~7ミリでまるく、
秋に黒く色づく。
漢方では、
この実を蔓荊子(まんけいし)といい、
鎮痛、強壮などに用いる。
ハマゴウの語源は、
「浜ばい」「浜ぼう」から変わったという説と、
「浜香」がもとだという説がある。
群生するハマゴウとともに素浜で特筆すべきものはハマグルマ(一名ネコノシタ)。
南方系のもので、
ここがその北限地として分布上大きな意義がある。
ツルを引いて砂丘にひろがり、
夏、
直径2㎝前後の黄色の花が咲く。
葉は、
猫の舌のようにざらつく。
また特記すべきは、
佐渡でこの砂浜だけ。
素浜砂丘と砂丘植生は、
佐渡の誇るべき自然である。
小木地区では、
「素浜海岸植物園」として、
この自然の保護にのりだした。
出発だけに終わってはならない。
文:近藤治隆
「佐渡自然と草木と人間と」(2003)
引用させていただきました