気になる群落の減少

北方系の花 ハマナス

 

佐渡の海辺にハマナスの咲き出すのは5月、

下旬には真っ盛りとなる。

花は5月ごろまで次々と咲くが、

6月にはもう堅い実がつき、

7月には色づき始める。

ハマナスは、

寂しげに咲く花だと思う。

ぽつんと咲いても、

群れて咲いても、

かすかな愁いを秘めている。

あのふわっとした紅色の花びらが、

かすかな風をも感じとって、

ひらひらと咲いている。

(コマナス)

昨日、

西三川の海辺で、

ハマナスの実を採ってきた。

それを机の上に並べている。

つややかな実も、

窓の光が映っている。

黄とだいだいと赤が溶け合って、

良い色をしている。

まだ熟してはいない。

5枚のがくが、

実の先に反り返っている。

直径3cmぐらいのを一つ切ってみた。

いびつな種子が53粒入っていた。

もう少し大きめのを切ると62粒あった。

ハマナスの実は平たい球状で、

熟せば小さなトマトといった感じである。

トマトは別名が赤茄子。

浜の赤茄子という意味からハマナスの名がついたように思えるのだが、

牧野富太郎博士は、

ハマナスは「浜梨」の東北なまりであって、

ハマナシが正しいと説明している。

 

海水浴のとき、

ハマナスの間の細道を通って浜に出たことや、

ハマナスの実を海水で洗って食べた思い出を語る人が多い。

そのハマナスも、

海岸の浸食や人工化によって、

年々減少している。

7年ほど前のことになるが、

佐和田町八幡の村岡鷹次氏が八幡海岸のハマナス群落について、

ていねいな分布図を送って下さった。

お孫さんと二人で調べられたとのこと。

それによると、

八幡小学校下の浜から石田川までの間は少ないことが分かる。

これは、

国府川の川じりから石田川に向かって進められてきた

海岸道路の建設と無関係ではなさそうである。

この海岸道路も、

あとわずかで石田川にとどきそうである。

国府川より真野川の海岸は、

すでに人工化されてしまっている。

八幡砂丘から海浜植生が姿を消す日は、

そう遠くはない。

海岸植物は残るとしても、

海浜植生は見られなくなる。

ハマナスは、

どこで咲けばよいのだろうか。

 

ハマナスの分布は、

遠く北方から北海道を経て本州の海岸を継続的に南下し、

日本海側は鳥取県(鳥取砂丘)、

太平洋側は茨木県が南限とされる。

植物社会学の分野から、

日本の海岸植生は、

北のハマナスーハマニンニク軍団と

南のハマゴウーハマグルマ群団とに区分される。

わが佐渡は、

ちょうど両群団の境界に位置するため、

北方系のハマナス、

ハマニンニクも、

南方系のハマゴウ、

ハマグルマも両方にもみられる。

 

オホーツクの潮のとどろく草丘に

すがれんとして赤き玫瑰(はまなす)

 

 

文:近藤治隆

 

「佐渡自然と草木と人間と」(2003)

著:伊藤邦男

引用させていただきました