佐渡ではヂシャノキ

森いずる髪にちりばめえごの花  安藤三保子

 

森の小道から少女の髪に、

白いエゴの花が散りばめていた。

風薫る5月に咲く、

清々しい花である。

5月の終わり頃、

枝先に白い蕾が下向きにつく。

たわわにつく蕾は小さな鈴に似る。

風に揺れて白い音色がするかのようである。

 

生物クラブ顧問である私は放課後生徒たちと学校周辺の植物をみながら散策する。

学校の近くの小川のへりにエゴノキがある。

道にさしのびた枝々に毎年5月にたわわに白い花が垂れ咲く。

私も立ち止まって、

見上げる。

「長き間を頭をあげてみつめいし乙女の髪にえごの花散る」。

 

和名エゴノキは、

この果皮がのどを刺激してえごいのでと名付けられた。

果皮が有毒である。

佐渡ではエゴノキと呼ばずもっぱらヂシャノキ、

実をヂシャノミと呼ぶ。

ヂシャはチシャ・ササ(萵苣)に由るとされるが、

どんな意味なのだろうか。

 

果皮は有毒であるが、

ヂシャの実はヤマガラの餌。

小鳥は実を足でふまえ果皮はとって、

実をつついてよく食べる。

果皮の有毒を利用して、

佐渡の子どもたちは毒流しをする。

毒流しとは川に毒を流してアユ・フナ・ドベカチなどをとる川遊び。

捕魚毒として川へ流すのは、

エゴノキ(実・葉)・サンショウ(実・葉)・クルミ(葉)・ヤマウルシ(葉)などであった。

 

毒成分とされるのはサポニン。

「夏休みにはシャボン玉遊びをよくした。

ヂシャの実をつぶし、

水にとかしてムギワラのストローで吹く。

シャボン玉がよくできた」

と語るのは真野町合沢の中川さん(昭和23年生まれ)である。

 

女の子のお手玉遊び、

お手玉の中にいれたのは、

ヂシャの実。

卵形で褐色のかたい実の入ったお手玉はシャンシャンといい音をたてる。

 

エゴノキが最初にでる古文書は、

『佐渡嶋菜薬譜』(1732)の木部類のリストで、

「売子木・ジシャ」

と記される。

エゴノキは漢字で売子木や買子木と書かれる。

エゴノキの実から燈油にするヂシャ油がとれた。

その実(子)は売買されたので売子木・買子木と呼ばれたのだろうか。

 

佐渡でもヂシャ(エゴノキ)の実からヂシャ油がしぼられた。

油しめには水車を使った所もあり、

大野町の田村庄兵衛は明治年代まで油屋で油を搾っていてという。

国仲ではヂシャノキをメーダマノキとも呼んでいる。

メーダマは繭玉(まゆだま)で、

繭の豊年を予祝する意味であるが、

佐渡では稲の豊作や大漁豊年を予祝して、

正月この木の枝々に小さなモチをいっぱいつけたものを神棚に飾る。

 

川辺にあるが、

枝分かれし、

木肌が茶色っぽく美しい。

しなるエゴノキはメーダマの木に適していた。

 



「佐渡 巨木と美林の島:伊藤邦男」

(1998)

引用させていただきました

 

水に溶かして