ツバキの実も笛に

子どもの知恵さまざま



スズメノテッポウの草笛は、

だれもがやったことのある、

なつかしい草笛である。

春早く、

田ごしらえ前の水田は、

スズメノテッポウで一面におおわれる。

円柱状の細長い穂に、

ちらちらと褐色の小さな花粉ぶくろが風にゆれる。

スズメノテッポウの花ざかりである。

 

穂を抜き、

葉を下にさげてくちびるをつけて吹くと

ピーと鳴る。

子どもたちはピーピー草という。

たくさん作り全部一緒に鳴らしたり、

音の高低にわけて鳴らしたりする。

 

島の子どもの作る笛はさまざまある。

ツバキやマサキの若葉をくるくる巻いた葉巻き笛。

タンポポの花茎やアサツキの茎を3~4㌢にして、

切口をつぶして吹く笛。

ササ笛、

ススキ笛、

ヨシ笛。

先にのびている新しい葉をひきぬいてからいちどこれを巻もどして根元から吹く。

 

ツバキ、ドングリ、カヤの実の笛。

石にこすって穴をあけ中身をとりだしてから吹く。

胡沙笛(こさぶえ)は蝦夷人の吹く木の皮の角笛である。

幕末の蝦夷探検家がききほれた笛という。

吹き口に細い竹管をいれ木の皮を巻いてらっぱ形にしたものである。

 

島の胡沙笛を教えてくれたのは

相川町関の川嶋さんである。

「クルミの若木の枝からラセン形の皮をはぐ。

皮をはいで角の形に巻くとできあがる。

よく作ったものは角笛よりクルミ笛だ。

クルミの皮をたたいて柔らかくすると皮が木部よりはずれる。

円柱形の皮の内部にすき間(共鳴室)をあけて両端から木部をさしこむ。

息をふきこむほうの木部をすこしけずり、

皮にも息ぬきの三角形の穴をあける。

クルミの木の下でよく作って吹いた」

とはなしをしてくれた。

 

作ってくれたクルミの皮笛の音を聞いたのはつい先日のことである。

 

「佐渡山野植物ノート:伊藤邦男」

(2002)

引用させていただきました