ふるさと賛歌

ヨメナカセの咲くころー山仕事始まる

 

 

 

 岬(小木岬)の自然。

海と山が、

今も4090人の人と1240戸(小木町)の暮らしを支えている。

何時の時代も村を

支えてきたのは、

村の自然・風土である。

この島の豊かな自然を抜きにして、

私たちの生活はありえない。

 

土を耕して作物を作り、

海に網を打って魚をとることが、

私たちの生業である。

島の大地や海が島人の生業の場。

「海こそよければ佐渡島。

山こそよければ佐渡島、

人こそ良ければ佐渡島」

と、

ふるさとを讃えたい。

 

佐渡の南端小木岬を訪れた。

岬の春は早い沢辺に雪が残ろうと粉雪がちらつこうと、

もう春だ。

ツバキの枝々に花が咲き、

キクザキイチゲも咲いているではないか。

 

岬人がヨメナカセてふ菊咲きの一華をたづぬ深浦

 

小木の深浦ではキクザキイチゲをヨメナカセという。

この花が咲くと嫁の顔はきりりとひきしまる。

嫁の山入りを告げる花である。

年間に必要な柴木づくりはヨメ仕事。

春山で千束もつくらねばならぬ。

ヨメナカセが咲いて、

さあー今年の仕事の始まりだ。

 

ヨメナカセの呼び名から嫁の怨念を想像するかもしれない。

しかし決して嫁の怨念ではない。

姑も夫もそれぞれに仕事があった。

貧富にかかわらずどこの家でも嫁がするヨメ仕事であった。

嫁の仕事といいながら、

うちの嫁も寒かろうとのいたわりが、

この名を生んだにちがいない。

 

 

~続く~

 

「佐渡山野植物ノート:伊藤邦男」

(2002)

引用させていただきました