佐渡一の秋の紅葉
小佐渡の小倉から多田越えに、
女神山(海抜591㍍)と男神山(海抜504㍍)の2つの山が並んでいる。
多田から望まれる2つの山は名前のとおり山容も美しい。
小さい方が男神であるのも古風で山岳信仰的である。
麓の多田のデルタに「三角田」という神さん田がある。
この田は、
佐渡に初めて稲田をもたらした土佐の三助と加賀のお菊が夫婦になって開いた田であるという。
死後、
2人は神となって2つの山に祀られた。
男神山、
女神山はそういった意味で稲神を穀霊を祀る山である。
この山は、
国仲から拝む山でなく海側の多田から拝む山である。
この男神山、
女神山の南側の山肌が紅葉山と呼ばれる佐渡一の紅葉の名勝である。
南面は、きりたった岩膚で礫まじりの岩肌である。
南面であるため陽あたりよく光をいっぱいうける。
岩山のため昼は高温、
夜は低温とその日較差は大きい。
南面のため風害に由る葉の枯死はいたってすくない。
紅葉する条件をみたして佐渡国1の紅葉の美しい山となる。
葉の緑の色素の葉緑素は、
夜の冷え込みによって分解され緑色はなくなり、
今までふくまれていた黄色色素があらわれてくる。
さらに夜のひえこみにより黄色色素も分解する。
昼つくられた糖は冷え込みのため移動できず、
この遊離糖から橙々~赤の色素ができてくる。
葉が緑色から、
黄色に、
さらに橙々色に、
さらに紅葉となるが、
夜の冷え込みで緑、
黄、橙々の色素はすっかり分解され紅色色素のうちの真紅の色素であるクリサンテミンだけとなる。
このクリサンテミンが紅葉の究極の色である。
純粋なクリサンテミンのみとなると、
葉は真紅の透けた色となる。
ハウチワカエデ、ヤマモミジ、
ツタ、ヌルデ、ヤマウルシ、ギョウジャノミズなどの燃えるような真紅色はこのクリサンテミンによる。
樹々の葉が地に落ち果てる前に、
このような真紅の色となる。
この事実に宗教的な感動がおこる。
”山眠る”冬から、
”山笑う”春を迎え、
樹々は”山繁る”夏となる。
そして地に果つる前に黄、
橙々、紅、真紅と粧うのである。
”山粧う”。
紅葉山の粧いに会うたびに、
ああこれは女神、
男神のこの年一番の粧いだと思う。
「佐渡 巨木と美林の島:伊藤邦男」
(1998)
引用させていただきました