12時50分、

青粘峠で昼食。

食事をしていると、飯泉先生たちが登っていらした。

「挾しい道をようこそ」

先生は満面に笑みをたたえて到着された。

 

ゆるやかな道を10分ほど下る。

イヌガンソク、クロモジ、エチゴキジムシロ、

アラゲヒョウタンボクと観つつ、

アスファルトの580号線に出た。

ここで飯泉先生たちと左右に別れて、

まもなく国道から脇の草原へはいる。

右手の道を行くとショウジョウバカマの群れと湿地にはザゼンソウの群生があった。

今度は反対方面へ。

ガイドの塚本さんは

「ユキワリソウはタデこきだ。

神様が1番タデこいて創った。

色、形、大きさはさまざまだらね」

といわれる。

伊達こきとは粋でおしゃれの意。

 


(オオミスミソウ)

佐渡の遅い春、

雪を割って人知れず咲くオオミスミソウ(ユキワリソウ)が、

まばらな雑木林の陽の差し込む草叢に、

まるで鉢植えそのものをそのまま地におろしたように一魂つづ咲いていた。

白、ピンク、濃紅、一重、八重、半八重と宝石をちりばめたように咲いている。

「佐渡は昔からユキワリソウはやたらに生えていた」

と、

塚本さんはいう。

色も形も大きさもシベの色もさまざまに変化があり、

まるで園芸家の育てたガーデンのよう。

これが自然のものとは、

とても信じられない。

不思議な風景であった。

「土地の人は案内しない。

盗掘するからね」

私たちはとらないという前提で、

秘かな場所を案内して下さったのだ。

 

国道からそれてドンデン山ヒュッテの方向へ進む。

エチゴキジムシロの群れ。

アラゲヒョウタンボクも咲いていた。


(アラゲヒョウタンボク)

小川添いに牛の放牧場であったという広々とした草原を行く。

元気なトゲ一杯のアザミはオニより痛いサドアザミ。


(サドアザミ)

湿った窪地にミズバショウの群れ。

まだいくつか白い花もある。

ドンデン池に着く。



サドサンショウウオの透明な卵の抜け殻が6~7個ぷあぷあと浮かんでいた。

池の周りの芝地に一面にアマナの大群落、

まるで芝草のように一杯生えて、

たおやかな花をゆらしていた。

まもなくドンデンキャンプ場だ。

塚本さんはヒュッテに10年務めていらしたそうである。

2年前、

市の、都合で閉鎖された。

ドンデン山を心から愛する彼にとって、

何んとも残念で仕方ないことのようだ。

黙ってドンデンタタラ峰を仰ぐ。

 

今日の道程の最後になって、

丸くそびえるザレた尻立山を急登する。

両津湾を右手にのぞみ、

強い風にあおられて登り詰める。

中腹の天然杉の下にヒカゲノカズラ。

タムシバ匂う。

ハクサンシャクナゲ。

こんなところにセンボンヤリの花。


(ハクサンシャクナゲ)

頂上近くにチゴユリ、

フッキソウが咲く。

ウラジロヨウラクの品のよい花。

ウスバサイシン。


(ウスバサイシン)

この辺は保健保安林だ。

頂上に着く。

島のほとんどを見はるかす眺望が待っていた。

向側に金北山の雪の壁。

ドンデン山は山を三つ合わせて、

一ノ段・二ノ段・三ノ段尻立山(940㍍)からなる。

尻立山は急登をおえて一息いれ、

さて尻を立て、

次のピークを登る。



下って行くと、

飯泉先生が先についていらして、

「道路沿いの道にマキノスミレが咲いていたよ」

とおしゃった。


(マキノスミレ)

目指す大佐渡ロッジの駐車場に着く。

16時。

バスで両津湾を眼下に眺めつつ急斜面を下り、

八幡館到着17時。

佐渡一の八幡温泉につかり、

ゴージャスな部屋に全員満足。

その夕、

参加者の誰もが口々にお天気に恵まれ、

ドンデン山の懐深く秘められた最後の砦、

幻のコースを案内していただけた喜びを感謝し、

佐渡をたたえた。

 



5月23日(火)6時朝散歩。

八幡海岸。

昨日の七浦海岸とは対照的な荒涼とした風景。

心なしか空もどんよりしている。

これも日本海に浮かぶ流人の島、

佐渡の一つの姿だと感謝あらたなものがあった。

 

マツ枯れがひどい。

荒野にチチコグサが生える。

花をつけていたのはコメツブツメクサ、

トウバナ、ハナニガナ、ハマヒルガオ、ノジシャ(帰)。

ヤダケ、ナツヅタ、アケビ。

ツルグミが大きな実をぶら下げている。

コバンソウ、カマスグサ、ハマアオスゲ、ナギナタガヤ、

カラスノエンドウ、スズメノチャヒキ、セイタカアワダチソウ、

イヌキクイモ、マメグンバイナズナ。

丈高く伸びたチガヤ。

ブタクサ(茎に蜂の幼虫のフシ虫が寄生)、

帰化植物のはびこる荒地でオオマツヨイグサの姿をみて、

ほっとした気持ちになる。


(オオマツヨイグサ)

 

チューリップ畠が広がり、

球根を育てるために首をもがれている様が、

一層、

わびしい。

オオヨモギ、マンテマ。


(マンテマ)

乾いた道路端に大きな雪洞シロツメクサ。

飯泉先生はスズメノチャヒキを指で丸めて石臼に見立て、

子供の頃の遊びを再現される。

 

ナガハグサ。

逃げ出したオオムラサキツユクサの深い紫色の花に救われた思い。

ナズナ、ハルノノゲシ、オオツルウメモドキ。

ハマエンドウの紅紫、

オランダゲンゲ(班入り)、

マルバシャリンバイやマサキの植えこまれた垣にアオツヅラフジがからむ。

 

コンクリートの防波堤を越える。

テトラポットの続く味気ない海辺。

コンクリートの堤にバシクルモン(キョウチクトウ科)。

コウボウムギ(筆草)の茶色の雄穂と麦の形の雌穂。

オオバイボタ、テンキグサ(アイヌ語)、

逃げ出したマツバギク。

ハマボウフウ。

海原をトンビが大きく飛ぶ。

ウやカモの姿も見える。

ウンラン、ハマゼリ、ハマボッス、オニシバ、

スナビキソウ、ナガバノギシギシ。

 

 

~続く~

 

「佐渡山野植物ノート:伊藤邦男」

(2002)引用させていただきました