子授け安産の霊木



牛尾神社拝殿の真向かいに聳え立つスギの神木。

『安産杉』と呼ばれるこの大杉は、

村指定の天然記念物である。

明治32年(1899)の火災のあとの再建であるが、

『牛尾神社の能舞台』も村指定の文化財。

室町末期作の『能面翁』は県指定文化財。

 

御神木なるが故に火災からまぬがれたのであろう。

亭々と聳え立つ『安産杉』は、

樹高30㍍、

胸高幹周5.5㍍。

4人抱えの大杉である。

 

『佐渡名木抄』(昭和24年・1949)には、

「天王さんの胎(はらみ)杉」

の名で

「初産帰女子」がこの木を抱えると安産すると申されて居りますが、

ご利益は経験者でなければわかりません。

医学の発達した今日といえども、

初産婦はよろしく神霊にすがり、

安産を得ることが大切でありましょう」

と紹介される。

『新穂村の文化財』(1979)には、

「安産杉、

一名孕杉(はらみすぎ)。

古来、

子授け、

安産の杉として名高い。

この大杉を抱えたり、

樹皮を煎じて飲んだりして、

子授けや安産を祈る風習がある」

とのべられる。

 



スギは日本特産種。

温暖温潤な日本風土に適しょく成長し巨木となる。

佐渡もまた名うてのスギの天然林のよく育つ巨木の島である。

まっすぐに育つ木。

真(すぐ)になる木(き)の真木(すぐき)がスギの名の由来。

 

小佐渡の下川茂の五所神社裏の大杉山は、

かつて天然杉の巨木の林立する森であった。

現存する

「太郎杉」

と呼ばれる杉の切り株は長径3間、

短径2間のスギの巨木で、

樹齢2000年余と推定される。

この島には天然杉の巨木が多い。

そして人々はこれを御神木としてあがめている。

 

巨木の杉に宿る壮大な生命。

偉大なる霊樹。

 

安産杉を抱く。

杉の生命がヒトの生命に感応する。

新しい生命を蘇らせる。

宿る樹霊が人間の霊魂を励起させる。

司馬遼太郎はいう。

「人間の暮らしから樹霊との連れ添いの心を失った時、

人の心は荒涼としてくることに気づいて、

おびえるような気持でいる」

と。

 

「佐渡 巨木と美林の島:伊藤邦男」

(1998)

引用させていただきました