冬日に輝く
砂山の枸杞の実赤くなりゐたり 桂 波
緑の消えた砂山にクコの実だけが紅く輝きをましてくる。
紅い実に白いあわ雪がふれては消えていく。
ぬれた実が冬日に輝く。
むかしより”その実秋冬にいたりて紅にして愛すべし”といわれてクコの実。
かわいいナンバンににる。
佐渡ではハマナンバンとかコウコウナンバンの名でもよばれる。
クコの和名は漢名枸杞による。
枝に枸(カラタチ)のようなトゲがあり、
杞(コリヤナギ)のようにしなやかである。
日本全土の川ぐろや海岸に野生するナス科の落葉性の低ー中木
秋冬に赤く熟する実は、
前年の秋に咲いた花が結実したもの。
佐渡の子に海岸にはクコがやぶになりハマナスがやぶになってひろがっていた。
夏のハマナスの実や秋や冬のクコの実は、
子どもたちの自然のおやつであった。
「クコは潮風に強い木で、
砂原のやせ地でもよく育つ。
切ってもすぐ芽がえるしよくふえてすぐやぶになる。
今はハマナスやぶもクコやぶもすっかりなくなってしまった」
と浜で出会った老人がはなしてくれた。
佐渡の真野湾沿い、
”雪の高浜”とよばれた八幡砂丘は、
砂山がつづき砂浜の美しい浜であった。
ハマナスがやぶとなり、
クコやぶがひろがり、
夏はハマゴウの紫花とネコノシタの黄花でうめられた砂丘がつづいていた。
この20年、
浜の面影はすっかり変わった。
海辺の植物が姿を全く消した。
植物が消えたのではない、
浜が姿を消したのである。
防波堤がつづきテトラポットのつづく浜となった。
浜の子もハマナスもクコの実もしらなくなった。
師走のある日相川の西坂を訪れた。
佐渡奉公所跡に通ずるこの坂は、
面影を残す石段のつづく坂である。
佐渡奉公所の編した『佐渡採薬譜』(1732~1736)には薬としてでなく
”菜類菜糧(かて)”としてクコの名が見られる。
町の隣村の鹿伏の人々はかつて春になるとクコの若葉を摘んで町に売りに行ったという。
クコめしを食べクコの若葉のゴマあえの味を知ってる人がこの町にはいがいに多い。
家をめぐらしているクコの垣(いがき)は、
菜糧のためであったのだろう。
西坂の近くに住む伊藤さん、
伊藤さん一家はこの10数年クコ茶を飲みつづけている。
5月と10月の新芽どきに御用かごに20杯も若葉を摘む。
葉を細かく切って直射日光で半日乾かし、
そのあと2~3日陰干したものをほうろくでいる。
沸騰したクコ茶にくらべ、
専門家からもほめられたという伊藤さんの茶は緑色が濃く香りが高い。
「クコ茶の薬効で一番確かなものは、
便秘がぴたりとなおること、
非常にねむくなり、
熟睡できること。
高血圧が原因で不眠で苦しんだお婆さんが熟睡できるようになり喜ばれた」
と。
クコの薬効はいろいろといわれている。
”邪熱を除き目を明らかにし身を軽くする”(和漢三才図絵)ともいわれる。
実の生汁や葉のせんじ汁はチカチカ目(はやり目)に効くが、
稲鯨の方言チカチカは薬効によるものではなかろうかー
こんなことを考えて歩いた。
冬日にクコの実紅し。
鐘楼のある丘から望む相川の海も輝いていた。
「佐渡山野植物ノート:伊藤邦男」
(2002)
引用させていただきました