お盆がやってくる



「精霊花が7回咲くと盆になる」いう。

と国仲でいう。

また

「精霊様は5色の雲に乗って帰られる」

とされ、

クズのつる葉を5色の雲にみたてて仏前を飾る。

天空まできた精霊様はスーッと真下に降りて我が家にもどられる。

幼いころ母から聞いたことを今でも覚えていて盆入りの日(8月13日)は天を仰いで精霊様のお帰りを待つ。

 

村々の盆花迎えは8月13日。

この日の早朝、

朝露をふんで山に入る。

ミソハギ(正しくはエゾミソハギとされる北方種)とヤマハギである。

ほとんどの村ではミソハギを精霊花。

ヤマハギを精霊花と呼ぶ村は少ない。

 


(やまはぎ)

この日各村では盆市・花市が早朝より立つ。

北狄では相川の花市に行くことを

「仏さん連れに行く」

といい、

泉では

「仏さん迎えに行く」

という。

13日の夕方、

海辺の村ではムギワラで作った精霊船を沖に出してお迎えする。

村の年より達は鉦をたたき念仏を唱える。

子どもたちは泳いで精霊船の先達となり村へ案内する。

迎え火も焚く。

「この火に乗ってござれ」(小木)、

「何日の仏さんもきておくれ」(水津)。

「迎えにきました」(岩谷口)と。

 

家でも迎え火を焚き、

足洗の水桶を用意してお待ちする。

家々では仏前に精霊棚を作りお待ちしている。

精霊棚にのせられるものはキュウリ・ユーガオの馬、

ナス・アケビの牛、

オガラ(麻殻)の足。

遠いところからお出になるから早くきたい時は早馬、

ゆっくりきたい時は牛、

楽にきたい時はユウガオの船に乗ってという。

アカメ(アカメガシワ)の葉の上の四角のトコロテンは仏さんの鏡、

塩は仏さんの歯磨き粉、

精霊棚の竹に吊るした16ササゲは仏さんの土産用の荷なわ。

その他にヤマナシ、

ヒメリンゴ、

ハイモ(里芋)、

ホオヅキ(仏の提灯)、

ソーメン、

ウドンなど今年の野山の幸をしっかりドッサリと進ぜる。

 

美しい花は精霊様が大好きなもの。

花迎してお出てくれた精霊花、

ヤマハギ、

花市で求めたキキョウ、

オミナエシ、

エドギク、

ハスの葉、

レンゲ、

センニチソウ、

ケイトウなど。

花に埋められて仏様も満足である。

 

「水向かえ」

はミズムケーといわれる。

水を仏に手むけること。

清浄なきれいな水を手むけること。

美しい花だけでなく清水を進ぜることもお寺さんの毎朝の大切な仕事である。

その代表がミソハギこと精霊花である。

花には霊が宿る。

それは死霊でなく活きた霊である。

活霊宿る最高の花ショウリョウ花が、

ミゾハギ。

ミゾハギは昔から禊花(みそぎはぎ)と呼ばれていた。

「みそはぎや水につければ風の吹く」(一茶)

妻の新盆にミソハギを手にして妻の霊にいとしみの涙をそそぐ一茶の句である。

水向かえの水にミソハギの花枝を指すが、

花枝を水につけて、

水そのものや供物に水をかけて清めるのである。

ミソハギ以外にヤマハギ、

シキミ、


(シキミ)

キキョウ、

センニチコウ、

キクなどの花枝も用いられる。

精霊様は花も大好き、

水も大好きなのである。

 



 

「佐渡花の民俗:伊藤邦男」

(2000)

引用させていただきました