柿をならせるおまじない
小正月の15日の早朝、
ナリモノの木、
特に柿の木を責めて、
その年の柿をならせようとすつまじないが行われた。
木責め、
柿の木責めと言われる行事である。
高千では別に日はきまっていないが正月中に行う。
高千の柿の木責めについて民俗研究家の浜口一夫は
『高千村史』(1957)に次のようにのべている。
「二人が柿の木のそばにいって、
一人が『この柿はいったいなるのかならんのか。
ならにゃ、
たたき伐ってしもう』といい、
幹になたで傷をつける。
もう一人は『そんなにおこらんでも今年はなる』の問答が行われる」と。
佐和田の西野では、
木の実2~3個を空き袋に入れ、
木の根元を引き回した。
トウラヤサンの竹で木を叩いて責めたのは金泉である。
金井町の大和では、
「なるかならんか」、
「なる、なる、なる」
の問答を3度唱えて、
5度柿の木を叩いた。
また同町の大和田では竹で木を叩くだけでなく幹の周りの地面を叩いたり、
味噌づくり用の塩の入った袋に石などを入れて柿の木の周りを引き廻したりした。
この行事は全国的事業である。
西蒲原郡黒埼町猪立の柿の木責めは、
なかなか面白い。
「昔はその家の主人が裃(かみしも)をつけ鍋を持って、
『なるか、ならんか』と問うと、
木の上に登っていた伜が『三万三千三百三十なり申す、
なり申す』と答える。
そして朝炊いた小豆粥を根元に注いでやる」と、
『新潟県百科事典』(1978)に解説される。
柿の木責めの生理について、
離島農業技術センター(金井町)の伊藤センター長の解説は次のようである。
「昭和57年当時の話し。
柿の木にはオトコギと呼ばれる実のならない木があるが、
窒素過多で樹勢が強すぎることによる。
また実を多くつけるが実が小さい木、
病気でもないのに実がよく落ちる木など、
いずれも栄養過多が原因である。
これらの木をおちつかせ実をならせるには、
栄養過多のアンバランスをくずさねばならぬ。
そのために、
「柿の木責め」行われるのである。
木の皮にナタで傷をつけたり、
叩いたり、
地表根を叩いたりして樹勢をそぐのである。
傷口に雑菌が繁殖しにくい寒い時期に行われたのが、
小正月行事にむすびついたのである。
現在行われている環状剥皮(かんじょうはくい)も、
現代版の柿の木責めである。
根元より上部30~50㌢の場所で、
樹皮を環状に3分の2ぐらい剥ぐ。
5月下旬から6月上旬に行う。
梅雨に入ると剥皮部に形成層、
維管束ができ、
秋までに回復する。
いちばんの目的は落下防止である」と。
「佐渡花の民俗:伊藤邦男」
(2000)
引用させていただきました