実の渋を抜きモチに

トチノキ



トチノキ科トチノキ属の落葉高木。

山に生える。

日本の海岸側のトチノキは、

葉の裏面全体に赤褐色の毛があるウラゲトチノキである。

花は白色で紅を帯び、

花房は直上。

両性花と雄花がある。

果実は丸く、

濃褐色。

葉は掌状複葉。

実をアク抜きしてトチの実でん粉をつくる。

昔はめしに混ぜたが、

現在はトチもちに搗きこむ。

昔は、

果実は牧荒食として長年貯えた。

 



 

トチノキの花は5月に咲く。

花の盛りには、

ミツバチがわんわんと集まって、

終日羽音を響かせている。

 

神子(みこ)のもつ神楽鈴の形をした白の花房が、

直立してつく。

樹冠いっぱい散らばってつく白花の鮮やかさは、

遠くからでもよくわかる。

 

畑野町栗野江の斉藤さん宅のトチノキの大樹。

樹齢百年余、

樹高25㍍。

西は真野湾、

東は両津湾を一望できる海抜60㍍の庭にそそりたつ。

昔は、

このトチノキの花が咲くのをみて、

村人は田植えに出たという。

田植えを告げる花。

花の自然暦である。

トチの実を水に浸した黄色の汁は、

牛馬の眼病によく効くとのことで、

遠くから実をもらいにきたという。

 

『佐渡志』(1816)に

「栃の子は民間に助けあり

深山に多くあり加茂郡の山民穀を去り米粉に雑へ搗て餅とす

味苦し 山家の食なり」

と記されてある。

 

トチノキは、

山の谷沿いやくぼ地にみられる湿性林の主要樹である。

佐渡大佐渡山地北東部の両津湾に面した加茂、

内海府(旧加茂郡)の山に特に多い。

この山地は、

佐渡の山地で積雪も多く、

春の雪解けも遅い。

この立地が、

トチノキ林を多く成立させた。

特に和木山のトチノキ林(海抜300㍍、広さ2.5㌶)は、

樹高30㍍、

幹囲3㍍余のトチノキの巨樹が多い林。

 

和木の共有林であり、

今もクチアケがある。

 

「トチの山のクチアケは何月何日と、

村に触れが出る。

この日、

村人はトチ山でいっせいにトチの実をひろう。

豊年の年は三日も拾い、

一戸当たり5斗、

40戸の部落で年に20石は拾った。

売値は米の半値であった」

は和木の高橋さん(大正3年生まれ)の話し。

 

実はタンニンを含み渋いが、

上質灰でアク抜きをする。

昔はトチの実デン粉でかて飯にしたが、

今はもっぱらモチにする。

この地方の嫁入りのオッツキ(本ぜん前の食事)は、

トチもちのアンコロが一番の馳走とされている。


美味しいトチモチ

 

 

「佐渡山菜風土記:伊藤邦男」

(1992)

引用させていただきました