脂っこい山菜の王様

タラノキ



ウコギ科タラノキ属の落葉中~低木。

山野の林のふちに生える。

崩壊地のパイオニア植物で陽樹。

林縁のマント・中~低木構成種。

花は白色。

花序は幹の先に着き大形。

果実は黒色。

幹に鋭い刺。

二回羽状複葉は大きく、

枝頂に集まり着く。

茎頂の若葉食用。

タラノメ、タランボ、ボウダラとも呼ぶ。

茎と葉に刺の少ないものがメダラ。

 

 

 ”木の芽”といえば、

関東ではタラの芽、

関西ではサンショウの芽、

越後ではアケビの芽をさす。

 

 山村では、

これらの芽の香りと味が春の訪れであった。



 

 春の訪れのはやい佐渡では、

これらの”木の芽”を春の香りにしなくてもよい。

年が明けるとイワノリがとれ汁に放して食べ、

3月にはいれば、

イソナ、アラメ、4月の終わりには天然わかめも出回る。

野のカンゾウもノビルも3月に食べられる。


(ヤブカンゾウとアサツキ)


タラの芽はわりに食べない。

コシアブラ、ハリギリ、タアノツメなどタラの芽と同じく脂っこい木の芽をほとんど食べないのが佐渡である。

 

 先年、

来島した東京山草会の人々は、

「関東では、

タラノキがあっても芽はつまれていない。

このごろはタラノキそのものを切り、

持ち帰り芽出しすることを商売にする人もいて、

タラノキそのものが少なくなった」

と嘆いていた。

 

 山の崩壊地や新しい林道や道端に真っ先に生えるパイオニア・プラント。

典型的な陽樹で、

日陰になると枯れる。

日当たりのよい林のふちや道わきに多く見られる。

採取時期は4月~5月。

佐渡では、

タラノメ、タランボ、ボウダラと呼ばれる。

 

 山菜通は、

”タラの芽は山菜の王様、

ウドは女王”という。

ウドの強い香りに、

ポッテリとした脂っこさを加味した味は、

”山菜の王様・山の肉”と呼ばれるにふさわしい。

 

 生のものを刻んでお汁に入れると、

汁は脂ぎってうまい。

ゆでてあえもの、

ゴマ和えによくあう。

天ぷらが最高だという人は、

あげたての熱いものに、

塩をつけて食べると、

うまくてワクワクすると。

 

 羽茂町亀脇の亀脇神社のご神体は。

タラノキで刻んであると言い伝えられ、

亀脇では今もタラノキを焚かず、

タラの芽を食わぬそうだと

『佐渡の昔話』(1927)にあるが、

今はどうであろう。

 

 

 

「佐渡山菜風土記:伊藤邦男」

(1992)

引用させていただきました。