自然のおやつムギノママ

アマナ



ユリ科アマナ属の小形多年草。

山野に生育。

大佐渡山地のシバ草原に群生。

ヒロハアマナ(アマナ属)、

キバナノアマナノアマナ属)も佐渡に自生。

早春花で花は白。

アマナは甘菜で食べる地方もあるが、

佐渡では食べない。

球根(鱗茎)を生食。

球根の佐渡方言はムギノママ。

昔の子どものおやつであった。

 

 

 大佐渡の海辺の村々、

金泉、高千、外海府。

かつてこれらの村の子どもたちの迎春花であったアマナ。

 

 「春3月半ば、

温かい南風が竹の割れ目にあたりヒョロヒョロと音をたてるころともなると、

段丘の斜面や水田のほとりのような向陽地の枯草の間から、

いっせいにアマナが白い花を開く。

幼い子供らが手に一杯とった量を競っている姿をみて、

大人たちは自然の春の訪れたことを知る事さえある」と、

入川の北見さんは、

『花をたずねて』(1972)の

「佐渡島 トビシマカンゾウ」

にのべている。

 

 村の背後の段丘斜面一帯は、

村の草刈り場。

佐渡牛の産地の村である。

まだ芽吹いていない食パン色の枯草のあいだに、

いちはやく開くアマナ。




日を受けてひらく6弁の白花には、

紫の縦すじが走っている。

 

 ユリ科アマナ属。

学名アマナ(甘菜)・エデュリス(食べられる)も、

食べられる甘い山菜をあらわしている。

2枚の根生葉も汁の実になるが、

佐渡では食べない。

地下の白い鱗茎は、

甘みがあって生でもおいしい。

戸地の子どもはムギノママと呼んでいる。

すっとした葉が麦の葉に似て、

球根(鱗茎)がママ(飯)になるからである。

イワユリをユリノママと子供たちがよび、

掘って生食するのもこの地方である。

 

 「春早くシラ(草刈り場)に、

白い花がいっぱい咲く。

こいだ花を手にいっぱい持って、

洗いもしないで生のままたべた。

甘ほっこりして、

とてもおいしかった。」

摘まれたムギノママは、

子どもたちにとってまたとない自然のおやつであったと語るのは、

戸地の大辻さん(明治42年生まれ)である。

 

 大佐渡山地に点在するドンデン、

平城畑、桐花などのシバ草原。

4月末から5月初め、

シバ草原のあちこちに、

消え残る雪が、

霧がふったかと思われる白のまだらが見える。

近づいてみると、

アマナの白花の大群生である。

 

 消え残る雪かと見れば山慈姑(あまな)かな

流水

 

 

「佐渡山菜風土記:伊藤邦男」(1992)引用