前回はロシアについて,人口や合計特殊出生率及び0~4歳児割合,さらには一人当たりのGDP,それぞれの推移についてみてきました。今回はウクライナです。
開戦以来2年を超える戦争の背景をあらためて探ると共に,
解決への道筋を探してみましょう。
ウクライナもロシア同様,ソ連崩壊後に人口減少が続きます。
しかしよく見ると,ウクライナはロシアに先駆けて人口減少が始まっていました。その原因は何か分かりますか?
1985年に起きた出来事,といえばもう40年も昔ですね。
世界に衝撃を与える出来事がウクライナで起きました。
そう,チェルノブイリ(当時)原子力発電所事故です。
当時のウクライナはまだソ連の一部です。この事故以後,ウクライナの人口は減少の一途をたどります。1991年ウクライナがソ連解体を待たずに連邦を離脱した背景にもこの事故の影響がありました。
出生率の低下も明らかです。
次は,
人口ピラミッドで各年0~4歳児割合の推移をみてみましょう。
1988年(7.5%)~2003年(4.1%)まで減少を続けます。
ところが2008年(4.8%)2013年(5.6%)と上昇に転じるのです。
その後,ロシアによるクリミア併合(2014年)をはさむ2018年(4.8%)に再び減少,さらにロシアによるウクライナ侵攻(2022年)をはさむ2023年(3.5%)とソ連解体後最低の水準に落ち込んでいます。
政治・経済・社会における大きな変化が,ウクライナのオトナたちの意識に大きな影響を与え,未来を描く気持ち=子どもの出産数の推移となって表れているようにボクには思えます。
あなたにはどううつりますか。
気になってくるのは2003年~2013年において子どもの出生数が増加している背景は何かということです。
ウクライナ政治はソ連離脱・独立以後,大まかにこんな変遷をたどっています。
1991~1994年
初代大統領クラフチュク
(1991年国民投票で選出:脱ロシア派)
1994~2004年
2代大統領クチュマ
(1994年大統領選挙で当選:親欧米派から親ロ派へ転向)
2005~2010年
3代大統領ユシチェンコ
(2004年大統領選挙ではヤヌコヴィッチが当選。しかし,
反政府暴動が起きて再選挙の末2005年就任「オレンジ革
命」と称される。親欧米派)
2010~2014年
4代大統領ヤヌコヴィッチ
(2010年大統領選挙で当選。2005年選挙で敗退した親ロ派)
2014~2019年
5代大統領ポロシェンコ
(2014年大統領選挙で当選。親欧米派。ヤヌコヴィッチの任
期は2015年までだったが,「マイダン革命」と称される大規
模な反政府運動がおきてロシアへ逃亡)
6代大統領ゼレンスキー(2019年大統領選挙で当選。親欧米派)
0~4歳児の割合が上昇している2003~2013年の大統領は,
ユシチェンコとヤヌコヴィッチの2名のようです。親欧米派と親ロシア派に分かれているので,経済政策その他においてどのような共通性があるのかはつかめていません。
余談ですが,「親欧米派政権」は二度にわたりクーデターともいえる反政府暴動の結果誕生していることは事実です。
ロシアの政治や大統領選挙について「非民主主義的」と非難する人々は,ぜひウクライナの出来事についても声を大にして非難していただきたいと思います。
さて話を戻します。
今度は「一人当たりのGDP推移」です。
やはり2003~2013年は上昇基調です。
2008年に一度激しく落ち込みます。たぶんリーマンショックが原因と思われますがはっきりしません。どなたかご存じでしたら教えてください。
3度にわたる上昇期と2度にわたる下降期が目につきます。
これをみるとボクは
本当にウクライナの人びとは可哀想だなと同情します。
「暮らしやすくなったなぁ」と安どし将来に期待すれば,
ドンと落ち込み。
また「暮らしやすくなったなぁ」と安どし将来に期待すれば,
ロシアによるクリミア侵攻でドンと落ち込み。
さらにがんばって「何とかなりそうだ」と一息つこうとすれば,ロシアとの戦争が起きる。
世界中が寄ってたかってウクライナをいじめている(いいように利用しようとしている)ように,ボクには見えてしまうのです。
こんな状態でどうやって将来に明るい希望を見出したら良いのでしょうか。
今年2月末,ゼレンスキー大統領は開戦以来約3万の兵士が戦死したと発表しました。一般的には少なめに発表されるでしょう。
国外避難民は欧州受け入れだけで620万人を超えています。
2018年と2023年の人口ピラミッドを比較すると約800万人もの大量の人口減少が見て取れますが,どうやら国外避難民を人口から除去した数字が算出されているようです。
ところで戦時下のウクライナにおいては兵員不足が指摘されています。すでにウクライナの動員兵力は約100万人とされていますが,ゼレンスキー大統領は新たに「50万の兵力が必要だ」と言っています。
2023年の人口ピラミッドをみてみましょう。
ウクライナで兵士となる人の年齢は現在「27歳~60歳」とされています(60歳!)。
ウクライナではまだ女性兵士登用がありません。
すると,25~60歳男性の人口比は24.1%になります。
総人口(3674万人)から算出すると885万人です。
そのうち100万人はすでに兵役に就いている。
残り約750万人からさらに50万人を兵役に就かせる…。
すでに15歳~34歳人口が異常なくびれを見せていますが,
これは国外避難を意味しているでしょうし,
同時に,兵役拒否を意味しているでしょう。
「大学生以上の学生も兵役免除」とされているため,25歳以上の大学生登録が激増して,ついに「30歳以上の高等教育機関利用禁止法」が制定されました。
隣国ルーマニアへ国外逃亡して拘束された人だけで6000名を超え,国境の川で溺死した人も19名いるとの報道もあります。
ウクライナにはこのいびつな人口構成で継戦する余力が残っているのでしょうか。
いつかは戦争が終結します。
しかし,そのときに,国外に避難した人びとはウクライナに帰国するでしょうか。
あるいはウクライナにとどめられている人々は,国外に移住することにならないでしょうか。
我がニッポンは敗戦後に復員兵士や引揚者で人口が増加し,
さらにベビーブームが到来して人口が急増していきます。
その日の食糧にも困る生活の出中で,
平和,戦争がなくなったニッポンにオトナたちが希望を見出した何よりの証拠がそこにあるとボクは思います。
ウクライナにもそのような「戦後」が少しでも早く戻ることを期待します。
だがしかし,ロシアとの将来の戦争の懸念がぬぐいきれないような決着であれば,ウクライナの人びとに明るい未来が描けることはないし,「ベビーブーム」が訪れることもない。
「戦後」のウクライナはさらに衰退していくしかないだろうと思えてしまうのです。
ボクは単なる悲観論を語っているわけではありません。
「戦争をどのように終わらせるか」の重要なポイントです。
ボクが一番言いたいのは,
ウクライナの人口構成やニッポンの敗戦の歴史から学ぶと
「ロシアを封じ込める」ような決着のつけ方では何も解決しないということです。
ちょっと話が広がり過ぎたようです。
いったんここでやめます。
長文を最後までお読みくださった方,ありがとうございました。