今日は2月29日,うるう年。オリンピックイヤーです。
2024年の夏季オリンピックはフランス・パリ開催。(以下,パラリンピックも含めて「パリ五輪」と書きます)
7月26日(金)から8月11日(日)まで開催される。ただし,32競技329種目が行われ,難民選手団と合わせて206のNOCが参加します。
ところで,世界では今,戦争が進行中です。
「ロシア・ウクライナ戦争」「イスラエル・ハマス戦争」はすぐに浮かぶでしょうが,全部で約80の「紛争」(軍隊が出動する争い)が展開中なのだそうです。
ロシア,ウクライナ,イスラエル,パレスチナ,それぞれの当事国は「パリ五輪」に参加するのか,参加できるのか…
あなたはどう思いますか。
●2020東京五輪のケース
2020東京五輪には,ロシア,ウクライナ,イスラエル,パレスチナのすべてが参加しています。
ちなみに,オリンピックの参加単位は「国家」ではありません。IOC(国際オリンピック委員会)が認定した「各国(地域)オリンピック委員会」です。
よって,2020東京五輪にも,次のような団体が参加しています。「アルバ(オランダ領)」「バージン諸島(英領)」「バージン諸島(米領)」「ケイマン諸島(英領)」「サモア(米領)」「香港(中領)」「バージン諸島(英領)」
さらに「ROC」「EOR」。
「ROC」は「Russian Olympic Committeeロシアオリンピック委員会」,「EOR」は「Equipe Olympique des Réfugiés(フランス語)難民選手団」。
ロシアはドーピング問題を理由に国旗・国歌の使用を禁止されて「ロシアオリンピック委員会」としての参加しか認められませんでした。
●2024「パリ五輪」のケース
「パリ五輪」では,ロシア選手は「ROC」としての参加もできなくなりました。
2023年10月ROCは,ロシアが〈ウクライナからの併合〉を主張する4州(ルハンスク,ドネツク,ヘルソン,ザポリッジャ)のスポーツ組織を承認。
IOCはこの承認が,「ウクライナ・オリンピック委員会の領土一体性を侵害しており,五輪憲章の違反」に当たると非難。ROCがIOCに参加する資格を停止。ROCは「国のオリンピック委員会として活動する資格」を失います。
しかし,IOCは同時に,ロシア(とベラルーシ)の選手たちを中立の立場で国際大会への出場を認める決定を下しています。
よって,ロシア人選手は個人としての資格で「パリ五輪」に出場できます。
ただし,団体種目の参加は不可です。
また「ロシアによるウクライナ侵攻に対して中立的立場の者に限る。積極的に支持する者は不可」としました。
これは「事実上の締め出し」にあたる気がボクにはします。
ウクライナのゼレンスキー大統領はそれでも非難します。
「IOCはロシアのテロを容認した」
「ロシアとベラルーシの選手の出場全面禁止が維持されなければ,パリ五輪をボイコットする」と表明。
IOCのバッハ会長は,ウクライナの主張を「脅しであり大変遺憾である」と反論しています。
あなたは,ウクライナ政府の主張と,IOCの主張のどちらが正しいと思いますか。
●オリンピックと戦争
IOCが明確にロシア選手の締め出しを表明しなかったことに対して参加ボイコットを示唆する国家が現れ,パリ市長もロシアの参加を歓迎しないことを表明しました。
批判が高まる中,バッハ会長はさらに反論しています。
「選手の参加に関して各国政府に決定権を与えれば,今のかたちの国際スポーツ大会とオリンピックは終わる」
「私たちはスポーツの使命にふさわしい解決策を見つけようとしている。対立を深めるのではなく,団結させるものだ」
「より平和に貢献しているのは誰なのか,歴史が証明する」
バッハ会長は何となく胡散臭さを感じさせる人物ではありますが彼の発言は,「オリンピックの原点は何か」を思い出させてくれます。
オリンピックのあるべき姿(オリンピズム)とは
「スポーツを通してこころとからだを健全にし,
さらには文化・国籍といったさまざまな違いを超え,
友情や連帯感,
フェアプレーの精神をもって互いを理解し合うことで,
平和でよりよい世界の実現に貢献する」
という考え方のことです。
たとえ国家同士がいがみ合い戦いあっても,
オリンピアン(個々のアスリート)は
「友情や連帯感,フェアプレーの精神をもって互いを理解し合うことで,平和でよりよい世界の実現に貢献」しようとする。
このような考え方と行動を「オリンピック・ムーブメント」といいます。
この考えは,近代オリンピックの原点である古代ギリシアのオリンピックが「戦争を終わらせる」役割を果たしていたことに起因しています。
古代ギリシアにおいて,「オリンピック休戦」が実施されていたことを,ボクは吉田秀樹著『オリンピックと平和』(仮説社)で知りました。あなたもぜひお読みください。
また以下のサイトもごらんください。
●近代オリンピックとオリンピック休戦
そして,ほとんどの人に知られていませんが,
現在のオリンピックにおいても「オリンピック休戦」の訴えは継続されています。
昨年11月22日,国連総会において「パリ五輪・パラ期間中の“休戦よびかけ”」が採択されています。
来年7月のオリンピック開幕の7日前から,来年9月のパラリンピック閉幕の7日後までの期間に,世界のあらゆる紛争の休戦と選手や役員らの安全な移動を確保するよう求めています。
パリ大会組織委員会のエスタンゲ会長は「オリンピック・パラリンピックは分断ではなく共通点を示すもので,いま,対立や緊張が続く中でより必要なものだ。スポーツはこれまで以上に果たすべき役割があり,よりよい世界への一歩を踏み出す手助けをしてくれる」と語りました。
しかしながら,ロシアは「ロシア人選手のしめだし」に反発。
採択の結果は賛成118か国・
棄権2か国(ロシア・シリア)・
反対0か国。
圧倒的多数で賛成と言いたいところですが,ちょっとおかしい。国連加盟国は193か国。数が合いません。
どうやら193―(118+2)=73。
73か国は「欠席」。
つまり,採択の場から席を外した=立場を鮮明にしなかったのです(賛成・欠席の国別内訳を入手できないでいます。どなたかご存じの方は教えてください)。
同じ国連総会の場でアラブ諸国はイスラエルのパレスチナ自治区ガザ侵攻を相次ぎ非難していて,各国にガザでの停戦を訴えています。
古代ギリシア世界では,「オリンピック休戦」は忠実に実行されたそうです。
それなのに,現代の世界では,「オリンピック休戦」は形骸化されています。
だがしかし,それでもボクは,「オリンピック・ムーブメント」と「オリンピック休戦」の価値はけっして色褪せていない。
むしろ,これからの世界が向かう道を指示してくれていると思うのです。
勤務校の授業はもう終わってしまいましたが,
4月からの教室で,「社会科のセンセイ」として,そんな話をしていきます。