ちょっと刺激的なタイトルをつけてしまいました
高校生とやった基本的人権の「平等権」についての授業について書きます。
最初の[質問]です。
さて,あなたはどのような言葉が浮かびますか。
あるいは,高校生たちは,どのような言葉を浮かべたでしょうか。よろしければ予想を立ててみてください。
高校生の考えた言葉
・不公平 ・格差 ・差別 ・いじめ ・学校カースト etc.
どれもなるほどと思えるものです。
その中からボクは「差別」を選びます。
次の[質問]です。
「差別をするのはいけない」といっても,実際に世の中には〈差別されている人々〉がたくさんいます。
たとえば,どのような人たちが差別されているでしょうか。
ただし条件があります。
個人名は絶対に禁止です
〈差別をされている人,〇〇(ボクの名前)〉なんて言われたら,ボクはもうめちゃくちゃ傷ついてしまいますからやめてくださいね」
高校生の考えた人々
・黒人 ・ユダヤ人 ・外国人 ・他の人と違う人
・奴隷 ・オカネがない人 ・女性 ・LGBTQの人 etc.
けっこうたくさん挙げられます。
少し横道に逸れます。
ボクはこの授業を,中学・高校で何十回とやってきています。
そして,ほぼすべてのクラスで,真っ先に挙げられ,しかももっとも多くの生徒があげるのは「黒人」なのです。
不思議なことだと思いませんか。
子どもたちは,それまでの人生で,はたして実際に黒人と会ったことがどれほどあるのでしょうか。話したことやいっしょに遊んだ,学んだことはあるのでしょうか。
けっして身近な存在とはいえない人びとがあげられるのはなぜなのか。これは一度じっくり考えるに値するテーマだと思って「棚に吊って」います。
さて,本題に戻ります。
そして実はここからが,この授業の特徴です。
「今みんながあげてくれた人たちをみると,差別されている人たちは,現代にも大勢いるようですね」
「今日はこれから〈スペシャルな授業〉を行います。あなたたちがこれまでの人生で,小・中・高で受けたことは一度もないはずです。そして,この先も受けることはないはずの授業です」
高校生の視聴率が一気に上がるのが分かります
「差別はいけないといっても,実際は多くの差別が世の中で行われている」
「こうしたすべての差別には実は共通点があります。分かりますか」
反応がありません。
「そのことを考えるために,今日は,
この教室で差別をしてもらいます」
キョトンとした顔をする人,えっと驚く人,「ムリムリ」と素早く反応する人…
「ただし,条件が2つあります」
「一つ目,ボクを差別してください。他の人にはいけませんよ。生徒同士差別させたりしたら,それこそ一発でボクはクビになります。でも,ボクが,ボクを差別してくださいと頼んでいるのですから,何も問題はありません」
「二つ目,一切声を使わないでください。音を出してもいけません」
1分間考える時間をあげますが,
教室中「蜂の巣をつついたような騒ぎ」とは,このことかという状態になります。
さて,あなたも考えてみませんか。
一切声を出さないで相手を差別する方法。
ちょっと気の毒ですが,列順指名であたってしまった人たちにこたえてもらいます。
その人の隣まで行き「○○さんよろしくお願いします」と一礼。
「それじゃみんな見てるかな~」
「○○さん,ボクを差別してください」…
リアクションをしてくれたら「はいありがとう。勇気を出して実行してくれた〇〇さんに拍手!」。できなさそうならば,「無理ですか?ごめんね無理をさせて」と謝って次の人へ。
こんな感じで,5~6人繰り返します。
高校生がよくするリアクション
・手で「シッシッ」と追い払うしぐさをする。
・机をひいてボクと距離をとる。
・顔を背けて(下を向いて)無視をする。
今回大うけだったのは,あるクラスのマジメそうな男子。
まさかの「中指立て」!をビシッと決めてくれました。教室は大爆笑。やった男の子は真っ赤になって顔を両手で隠して,でも大爆笑。このリアクションは初。
さぁ最後の[質問]です。
「今皆さんは声を出さないでボクを差別してくれました。今度は
今のリアクションに声をつけてください」
高校生の考え
・あっちへ行け。 ・こっちへ来るな。 ・シッシッ。
・関わるな。
その通りです。
ボクは先ほど「すべての差別には共通点がある」と言いました。その答えがこれです。
「あっちへ行け。こっちへ来るな。シッシッ。関わるな」
まとめていうと「排除」。
これがすべての差別の本質です。
だから〈平等な社会〉とは,
〈だれも排除されない社会〉ということになります。
今日はこの後,平等権について多くの例をあげていきます。
でも,変な言い方ですが,もしただ一つ,
この授業で絶対に覚えていてほしいことがあるとすれば,
このことです。
〈すべての差別の本質は排除である〉
あなたのこれからの長い人生で,
残念ですが身近なところで差別が起こることがあるでしょう。
「あれ,あの人,あの人たち,排除されていないか。これって差別だろう」そう気づくこと。そこで,あなたがどういう態度をとっていくのかは任せます。だけど,まず大事なことは,それが差別であることを認識することです。
それから大事なこと。
みんなボクを差別してくれました。ありがとう。
でも,これは,今だけ,この時間だけのことにしてくださいね。
いいことを教えてもらった他の人に試してみよう,
なんて良い子は絶対に真似をしないでください。
お願いします。
スペシャル授業の感想を書いてもらったいったん休憩。
そして日本国憲法第24条からはじまる「平等権」の内容に入っていったのでした。
いかがでしたでしょうか。
〈平等権について考えるために,あえて差別を「する」授業〉。
どのクラスでも感想を書いてもらったのですが,
「不快だった」「やってほしくなかった」という声はまったくありませんでした。
高校生の感想から
・「スペシャル授業が楽しかった。発言する機会が多かったから
楽しく学べた。2学期はスペシャル授業を増やしてほしい」
・「内容的に今後の人生でも使えそうな気がした」
・「まさか差別をすることになるとは思わなかった。なかなかや
り方を考えるのは難しかったが,考えた分だけ後の内容がとて
も身にしみた気がする」
・「スペシャル授業がとても楽しかった。これからも使える知識
を身につけることができたので,とてもためになった」