6月8日福岡地方裁判所である判決が下りました。
「同性同士の結婚を認めていない現行制度(民法や戸籍法の規定)は憲法に反する」として,6名の原告が国に損害賠償を求めたいわゆる「同性婚訴訟」の判決です。
福岡地裁は「違憲状態」と判断しました。
この話は,よくご存じの方もいるでしょう。
いまさら…思われるかもしれませんが,
ボクと高校生の公共や政治・経済の授業の様子を紹介するので,よろしかったらお付き合いください。
公共(1年)と政治・経済(2年)は共に日本国憲法の基本的人権の尊重を扱っているところです。
争点となった憲法の条文に第14条と第24条があります。
(13条は省略します)キーワードを赤くしました。
第14条
・すべて国民は,法の下に平等であって,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない。(略)
第24条1項
婚姻は,両性の合意のみに基いて成立し,夫婦が同等の権利を有することを基本として,相互の協力により,維持されなければならない。
第24条2項
配偶者の選択,財産権,相続,住居の選定,離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して,制定されなければならない。
判決の骨子
(1)
第14条「両性」「夫婦」,第24条「両性」。これらの文言は,
憲法が「婚姻」について異性間を想定していることを意味する。したがって,同性婚を認めない現行制度が違憲であるとは言い難い。
(2)
同様に,憲法が「婚姻」について異性間を想定している以上,異性カップルと同性カップルが婚姻に関して異なる扱いを受けることは,「法の下の平等」に反しているとは言えない
(3)
異性カップルも同性カップルも「個人の尊厳」をもつ。したがって同性カップルが婚姻を認められないことは人格的利益を侵害するもので看過することはできない。
(4)同性婚に関する国民の理解が進んでいるので,同性婚を認めない民法や戸籍法は時代遅れであり「もはや憲法24条2項に違反する状態である」
同性婚合法化論者も否定論者も同じく日本国憲法の条文に依拠しているところが,実に興味深い点です。
ボクのまとめ方が怪しいかもしれないので,判決文要旨はこちらでご確認ください。
ちなみに同様の訴訟はこれを含め全国で5つ進行中で,すべて第一審の判断が出そろいました。
「合憲」は1,「違憲」は2,「違憲状態」は2。
「民法や戸籍法はこのままでよい」:「民法や戸籍法を改正するべきだ」=1:4という結果です。
実は,ボクの肌感覚というやつですが,
高校生の間で「同性婚」についての関心が高まってきている気がします。授業していて視聴率の高さが上がっているし,ボクの話にうなづきながら聞いている人が増えている。
さらには直接この話題ではない感想文に「私は同性婚の問題に関心がある」と書いてきた生徒が初めて登場したことも印象的です。
ところで,ボクが憲法学習,人権学習で大事にしている視点を
2つあげます。
(1)人権意識は時代と共に変化する。
(2)権利は与えられるものではなく,たたかって勝ち取るものである。
「同性婚」訴訟を起こした人たちは,まさしく自分たちの権利を獲得しようと行動を起こしています。
そして,判決文には興味深い内容があります。
超大ざっぱに書くと
「同性婚」の容認について
(1)
60歳以上の年齢層においては肯定的な意見と否定的な意見が拮抗している。婚姻は異性間のことだとする社会的通念が根強い。
(2)
20代や30代など若年層においては,同性婚又は同性愛者のカップルに対する法的保護に肯定的な意見が多数を占める。
(3)
全体として,同性婚に賛成する者の割合は年々増加し,2018年(平成30年)の時点で60%を超えるようになり,その後も増加を続けている。
ボクはこう高校生に問いかけました
この判決は「同性婚」を認めている,認めていない。どちらだと思う?
みんな首を捻りつつ,手を挙げて,高校生の判断は拮抗します。
ボク
まわりくどい言い回しで分かりにくいだろうけれど,
裁判所は,国民の意識が相当変化し,
「同性婚」を認める方向に傾いていることを理解しています。
だから,国会は国民意識を考慮して,
「同性婚」を認める法律・制度を整えなさいと言っています。
ただしこれはまだ第1審です。
皆さんはよく知っているように,この高裁,最高裁と裁判は続きます。結論が出るまでに数年,おそらく5年以上かかるかもしれません。あなたたちは20歳を超えていますね。
(がっかりしたような表情の人が出ます)
でも,大事なことがあります。
「権利は与えられるものではなく勝ち取るものだ」ということです。
判決が出るまでじっと待っている必要はありません。
裁判を起こした人はごく少数の人たちですが,それを支える人たちの声が強まれば,国会は国民の声を無視できなくなります。
裁判の判決にかかわりなく「同性婚」を認める法律が成立する可能性もあります。
もちろん,付け加えますが,
同性婚に反対する人は,そうした声を上げる権利があります。
その声が大きくなれば,同性婚を認める法律ができる機会は遠のくでしょう。
あなたには「思想の自由」があります。
18歳未満の高校生にも「請願権」が認められています。
同性婚に賛成・反対どちらの立場の人も,
自分の権利を使いたかったら自由に使ってください。
――
ここまでで終わりにしているのですが,あるクラスで質問が出ました。
「先生はどっちなんですか?」
おもしろいもので,高校生はあまりこういう質問をしてきません。何ででしょうね。ボクが聞きづらいキャラクターなのか,
センセイという存在一般に期待をしていないのか
せっかくなのでボクは「賛成です」と答えました。
根拠は4つ話しました。
(1)
ボクは異性愛者です。女性の奥さんがいます。ですから自分が同性愛者だから賛成というわけではありません。そもそもこうした人権の話は,自分の好みを元に考えるようなことではないと思うのです。授業でやってきた自由権,平等権を使ってみましょう。
(2)
平等権の観点からすれば,同性カップルを差別する合理的根拠がボクには分かりません。
(3)
自由権の観点からすれば,「婚姻の自由」はボクたち全員にあります。誰が誰を好きになるか,誰と結婚するか,あるいは誰とも結婚しないか,それはボクやあなたの自由です。
国家に口出しされてたまるもんか。「国家からの自由」です。
(4)
公共の福祉の観点からすれば,どうでしょう。
ボクが異性を好きだということで,世の中の男性に不利益が生じるでしょうか。ありません。
ボクが同性を好きだということで世の中の女性の権利を侵害することになるでしょうか。なりません。
ボクが誰かを好きになる自由,誰と結婚するかしないかの自由は,公共の福祉に反することがありません。
以上です。
ボクは「同性婚」について
反対する理由がない。
賛成する理由はある。
そういうことです。
もちろんこれはボク個人の考えですから,みなさんが納得するもしないも,皆さんの自由です。
でも,自分の好き嫌いではなく,こんな考え方もできるということは知っておくといいかもしれません。
―― 少し長い話でしたが,視聴率は高かったと思います。
おっと,このブログ自体とんでもなく長くなってしまいました。
最後までお読みいただきありがとうございました
もちろんお読みくださった方にも,共感・反感さまざまな思いがわいたことでしょう。
よろしければあなたのお考えも教えてください。
ただし,気が弱いのでお手柔らかにお願いします