先日立川シネマシティで鑑賞した「キングコング対ゴジラ」4Kリマスター・極音・爆音上映、今回は出演された役者さん達に視点を移します。
と言ってもそこは特撮小僧である私の事、ちょっと変わった見方をします。

本作には若林映子さん、浜美枝さんとこの映画で見初められて後にボンドガールになるお二人もご出演なのですが、
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東宝特撮少年的にはヒロインは根岸明美さんなのです。「南の孤島」に「色黒原住民」、それに「儀式の踊り(通称・ドンタタ踊り)」、現在では結構「ピー!」なこれらは当時東宝特撮のワンセットでした。
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島でキングコングを鎮める踊りのセンターを務める女性。この方が根岸さん。この頃には既に時代劇やアクション活劇で主役クラスを演じておられました。そんな方が全身に墨を塗り南の島の女性になって巨大な猿の為に踊ります。キレッキレの踊り、この目ヂカラ!

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「キンゴジ」の7年前、撮影当時21歳で「獣人雪男」のヒロインを演じた時の根岸さん。デビューは17歳、オーディションでいきなり主役を射止めたシンデレラガールでした。その後着実に演技力をつけて黒澤明監督作品の常連にもなりました。

「キンゴジ」と言えば高島忠夫・藤木悠さんの名コンビ。
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…なのですが、このふたりをあっさり喰ってしまうのが
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タコ、じゃなかった多胡宣伝部長こと有島一郎さん。怪獣映画はこれ一本のみの出演。この時既に森繁久彌氏・三木のり平氏と並ぶ名喜劇俳優でした。しかし、特撮ファンとしては有島さんの流石のコメディアン振りを傍でしっかり支える、隣のこの方…
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堺左千夫さんに目がいきます。こちらも流石の芸達者で迷惑部長、失礼名物部長をボケ満点で盛り立てます。1954年「ゴジラ」で、最初に大戸島を取材し国会での証言に立ち、又平田昭彦さん演ずる芹沢博士を訪ねる新聞記者役、と言えば分かる方もおられるでしょうか。

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東宝特撮の常連、田崎潤さん(右)、平田昭彦さん(中央)もそれぞれ十八番の自衛隊指揮官、博士の役でご出演。特撮小僧の私が嬉しいのは左の桐野洋雄(きりの・なだお)さん。田崎さんの副長格でご出演。お二人は「妖星ゴラス」(1962年)でも宇宙艇・隼号の艇長・副長役で、「フランケンシュタインの怪獣  サンダ対ガイラ」(1966年)では再び自衛隊指揮官・副官役で共演されています。
他に佐原健二さん、田島義文さんなどお名前の通った方に混じり、特撮小僧には嬉しい堤康久さん(桐野さんと同じく田崎さんの副官)・大村千吉さん(通訳、上の方の高島・藤木コンビの画像、左の方)、加藤春哉さん(有島一郎さんの部下)などもご出演されています。
それにしても看板を背負える役者さんから名脇役の方まで多彩な顔ぶれです。

ちょっと映画本編から外れます。
東宝設立30周年、東西二大怪獣の対決と、スター・名優を集めるには十分な理由があるのですが、実は当時ならではのもうひとつの「理由」があります。
戦後映画界では、役者さんは基本的に各映画会社との専属契約の下で活動するのが普通のことでした。ざっくり言って多くの皆さんは映画会社の社員だった訳です(現在の「契約社員」とは全く異なります)。
大作だから、と言って他の会社で活躍する俳優さんを使うことは事実上出来なかったのですね(その後、1960年代から退社・独立される方々が現れ、現在の様に作品個別の契約制が主となります。テレビの台頭と軌を一にしています)。

作品に戻って。
本作「キングコング対ゴジラ」は両雄の対決、当時の東宝の大看板だった特撮映画であり、兎に角怪獣ありきの娯楽作です。
しかし今回改めて大画面・高音画質でこの作品を鑑賞すると「オマケ」と言っても差し支え無いドラマパートがむしろ印象に残ります。
それは演じる役者さん達の演技力ともうひとつ、「熱量」の賜物です。
ほとんど台詞の無い島民をしっかり演じ、長身・美麗な肢体と本気の踊りで少年達の目を釘付けにした根岸明美さん。
有島一郎さんのコメディ全開の演技が、物語の推移の中であくまで自然に、余韻を残して引っ込んでいくその塩梅。実直かつ柔軟に任務を遂行する自衛官が期待通りの田崎さん、知的でスマートで、ちょっぴりウィットも持つ博士を作り上げた平田さん。勿論物語を明るくテンポ良く引っ張って行く高島・藤木コンビ&生真面目路線でスリルパートを受け持つ佐原さんの主役三人の演技も印象に残ります。そこに特撮小僧お馴染みの面々が絡み画面の隅々まで弛緩の全く無い演技で埋め尽くされています(コングに捧げる踊りの場面の、モブの方々が一部「?」なのですが)。
こうして進行がややご都合主義なドラマパートが寧ろ深く印象に残り、二大怪獣の対決をクライマックスとする特撮パートを支え、「キングコング対ゴジラ」という娯楽大作を立派なタペストリーへと編み上げているのです。

昔のリバイバル上映はフィルムの痛みからくる画面のブレや傷、音声ノイズが気になったものです。これらが4Kリマスタリングで改善され、画面の明度も上がったことで役者さん達の表情まで良く分かる様になりました。
今後も過去の作品が同様のレストアを受け、随時再上映される様になれば、映画館に足を運ぶ方が増えるのではないか—帰路、夜の立川の街を駅へと歩きながら、ふとそんな希望が浮かぶのでした。

さあ来週はゴジラフェスに「シン・ゴジラ」だ!