皆さんも日常生活で「無限」という言葉を使うこと,少なくないかと思います.「私甘いもの無限に食べれちゃうの~」とか言う女とか.ぶん殴られても仕方ないですね.今日は知らないときっと損をする,無限について話していこうと思います.

 

結論から言うと無限にも種類があるんです.何言ってんだこいつって感じですが,これを説明するためにも先ずは数の集合からおさらいしていきます.

 

 

懐かしき高校数学,数の分類ですね.こいつをもうちょっと数学っぽく表現してみましょう.

 

CRQZN

 

もう嫌になりましたか?そんなこと言わないで,ちゃんと日本語にしますから.例えばNなら自然数と言う風に,それぞれの大文字アルファベットは数の集合を表します.

 

複素数⊃実数⊃有理数⊃整数⊃自然数

 

だいぶ話のわかるやつになりましたね.間の「つ」みたいな記号は集合間の関係を表す記号で,A⊃Bと書いてBがAの部分集合であることを表します.右に行くにつれ小さな集合になっていると言うことですね.では次にそれぞれの集合について個別に解説して行きましょう.

 

N

最も我々に身近な数,自然数ですね.natural numberの頭文字から来ています.こいつを1,2,3,...とするか,はたまた0,1,2,3,...とするか,すなわち自然数に0を含むか否かは流派によって異なります.どの文明の起こりにも1から始まる正の数字がありましたが,数としての0の概念は7世紀のインドでようやく生み出されます.今では考えられませんが,昔の人にとって「物が無い」と言う概念(=0)は「無い」と言う言葉で十分だったわけです.

 

Z

整数です.自然数に負の数を加えたものですね.英語ではintegerとかwhole numberとか言ったりします.Zという文字は英語ではなく,ドイツ語で「数」を意味するZahlenから来ています.急にドイツ語です.意外なことに,負の数が定式化されるのは非常に遅く,つい18世紀まで,負数は存在しないものとされていました.リンゴが1個,リンゴが0個はイメージできても,リンゴが-1個という状況は実世界にはありませんからね.

 

Q

有理数です.英語でrational number.今度はイタリア語で商を意味するquozienteから来ています.ここで有理数の定義を思い出しましょう.有理数とは二つの整数m,n(nは0では無い)を用いてm/nと表せる数のことでした.今度は一転,有理数の概念の萌芽は非常に早く,古代ギリシャにまで遡ります.ピタゴラスの定理で有名な古代ギリシャの数学者ピタゴラス,彼の率いるピタゴラス教団では,全ての数は有理数で表されるとし,これを教団の教義としていました.ところがどっこい,教団のメンバーであったヒッパソスは2の平方根が無理数であることを公言,ついには教団によって殺されてしまいます.まあ真偽は定かでは無いのでギリシャ神話みたいな話ですがね.ではここで√2が無理数であることの証明をパパパっとおさらいしましょう.

 

√2が互いに素な整数m,n(n≠0)を用いてm/nと表せるとする.

√2=m/nより両辺2乗して2=m^2/n^2

∴2n^2=m^2

2n^2は偶数であるためm^2もまた偶数.よってある整数kを用いてm=2kとすると

2n^2=4k^2

∴n^2=2k^2

同様にnも偶数となり,m,nともに偶数となる.これはm,nが互いに素であることに矛盾.

 

互いに素というのは,1以外に共約数を持たないことを言うのでした.非常にシンプルで美しい証明ですがこれを紀元前6世紀に思いつくのですから全く大したものです.余談ですが,証明やら数式やらに対して美しいと言う表現を使うのは陳腐で個人的にはあまり好きでは無いです.つい1行前で使っといてなんですが.

 

R

いよいよここまで来ました,実数です.real numberのRです.こいつの定義はひっじょーにめんどくさいのでやりません.興味のある人はコーシー列とかデデキントカットとかで調べてください.ちなみに実数の形式的な定義がなされたのは19世紀,カントール(Georg Cantor)やデデキント(Richard Dedekind)に依ります.

 

C

complex number,複素数です.虚数単位iと実数a,bを用いてa+biと表されるあれですね.2乗すると-1になる数とか言われて,「はあ?意味わかんねぇだから数学嫌いなんだよ」みたいなの思われがちでは無いかと思います.これは虚数とかいう「想像の産物」みたいな名前が悪くて,実際現実世界でも電磁工学や量子論に現れて来ます.数学の世界でも,これまで実数空間だけで議論して来たものを複素空間に拡張してみると,実は実数における場合こそが複素空間の限定的な場合だった,ということばかりです.つまり複素空間こそが本質的な世界なわけですね.虚数が存在するか否かはイデア論みたいな話になりますし,この辺は今回の話とあまり関係ないので割愛.

 

 

 

ここから本題.ここまで読み飛ばしたあなたは非常に利口です.なぜこんなに長々と数の集合について説明したかというと,これらの集合の要素の個数の話が,無限の種類の話に密接に関係してくるからです.ではまず集合の大きさを比較する方法を考えて見ましょう.

 

A={1,2,3}

B={1,2,3,4}

 

集合AとBどちらが大きいかは一目瞭然ですね.Aの要素は3つ,Bの要素は4つ.どうみてもBの方が大きいです.集合の要素の数を数えて比較する,非常にシンプルな方法ですが,ここで他の比較方法を考えて見ましょう.その方法とは,AとBの要素の間で1:1のマッチングを作ることです.

 

A={1,2,3}

     |  |  |

B={1,2,3,4}

 

いかがですか?1:1のマッチングを作った結果,Bの要素が一つ余ってます.これはつまりBの方がAよりも大きいということです.うーん,あたりまえ体操って感じですね.この結果を踏まえ今度は自然数Nについて考えて見ましょう.自然数の要素の個数を数えてみると,0,1,2,3,...うーんw無限個w.これを数えるのは骨が折れそうです(ていうか無理).では今度は整数Zは?1,2,3,...さらに-1,-2,-3,...えーと正に無限個と負に無限個笑.

 

舐めてかかってますが直感的にはどう考えても整数の方が大きそうです.だって2倍無限だし.ということで,ここで先ほどの1:1対応を考えて見ましょう.

 

N={ 1, 2, 3, 4,...}

       |  |  |  |  ...

Z={-1, 1,-2, 2,...}    (簡単のためどちらとも0は除いてます.ズルいです.)

 

N,Zどちらとも数字は無限に続き,マッピングを表す|も無限に続きます,当たり前ですね?ということで自然数と整数の個数が同じということが証明されたのでした,めでたしめでたし.

 

…いやいやおかしいだろ!!というあなた,ぜひ反例,つまりこの|の連続の後に余りが存在することを示して見てください.確実に数学史に名を残すことになります.

 

少々意地悪なことを言いました.これ,直感的にはどう考えてもおかしいんです.明らかに整数の方が2倍要素がありそうなんですから.しかしこの1:1対応には誰も反論できない.斯くして自然数の無限と整数の無限は同じものだと証明されたのでした.この考えは先ほども名前が出て来たカントールによってもたらされたものです.このマッチングという考えをもう少し数学的に厳密に表現すると,両者に全単射像が作れるということです.実際,n∈N,z∈Zに対し,z= if n:even then n/2 else -(n+1)/2 としてやるとNZの間に全単射像が作れます.

 

自然数サイズの無限のことを可算無限(countable infinity)と言い,これをヘブライ語でAを表すא(アレフ)と下付きの0を用いてא0(アレフゼロ)と表します(数式環境ではないので下付き文字が表現できません悪しからず).ギリシャ語に飽き足らず遂にヘブライ語まで使って来たかって感じですね.ちなみにiOSではヘブライ語のキーボードが使えます.皆さんも一度使って見てはいかがでしょう.

 

この考えを使うことで今度は自然数と有理数の大きさが同じことも言えます.いやいや笑,さっきは∞vs2*∞だったけど,0と1の間に有理数は無限個あるんだぜ?2vs∞じゃん笑.無理無理笑.…いやいやこれがそーでもないんです.

 

 

このように,約分により重複する数をスキップしつつ斜めに矢印を取っていくと,見事に1:1対応ができるのです.(この図作るのなかなかにめんどくさかったです)なんということでしょう.整数に続いて有理数まで自然数と同じ大きさということになってしまいました.

 

さて,ここで勘のいい人ならもうお気付きかもしれません.そう,実数はcountableではない(=自然数と同じ大きさではない)のです.証明して見ましょう.

 

実数の数が可算無限である(=自然数と同じ個数)と仮定します.すると以下のように全ての数に番号を付けて列挙することができるはずです.

n1=1.0000000...

n2=1.4142135...

n3=1.7320508...

n4=2.2360679...

n5=2.7182818...

n6=3.1415926...

...

ではここで新しい数mを次のように定義して見ましょう.

 

m=小数点1桁目はn1とは違う数,小数点2桁目はn2とは違う数,3桁目はn3とは違う数,4桁目はn4とは,...

 

ここでは例としてm=1.123193...として見ましょう.このmが何番目のnなのか探して見たいと思います.

少なくとも小数点1桁目がn1と違うのでn1ではない.

小数点2桁目がn2と違うのでn2ではない.

小数点3桁目がn3と違うのでn3ではない.

小数点4桁目が...

 

おやおや,先程自然数と実数が1:1でマッピングできると仮定したのに,余るものが出て来ましたね.これってつまり実数の方が大きいってこと?

 

斯くして実数は自然数での無限では数えきれないことが示されました.この証明法をカントールの対角線論法と言います.またまたカントールさんが登場しました.可算無限(=自然数)では数え切れないので,実数の無限を非可算無限(uncountable infinity)と言います.0אの次の無限なので1אと表したりします.

 

お疲れ様です.これであなたも可算無限と非可算無限の違いがわかるようになりました.これで何が嬉しいの?と言われたら.そうですねぇ,例えば連続体仮説というものがあります.これは先ほどのא0とא1の間に中間の無限は存在しないという仮説です.これまたカントールさんによって提唱され,現在の数学公理系では証明も反証もできないとされています.これが今度は選択公理とかいう難しい話と関わってて云々…

 

あとはあれですかね,「私不可算無限に甘いもの食べれちゃうの~」って感じでマウント取れるかもしれません.

 

 

以上自己紹介でした.

バストロ,MC,ついでに今年はバンマスやります.

 

 

 

 

 

 

 

 

参考サイト

"無限にも大きさのランクがある!"

http://samidare.halfmoon.jp/mathematics/Mugen/index.html

 

あとWikipedia多数,善良な大学生は私が書いたこの記事を鵜呑みにしてはいけません.