多くの場合,「極限」との邂逅は高校数学は数学Ⅱ,微分の定義に対する導入においてであると思われる.文系諸兄においてはこれ以降極限に触れることはないが,理系の人間にとっては大学受験以降,一生付き合うことになる概念である.高校数学での極限の定義とは
「関数f(x)において,xがaと異なる値を取りながら限りなくaに近づく時,f(x)が一定の値bに限りなく近づく場合,
と書き,xがaに限りなく近づくときのf(x)の極限値がbであるという」
と言うものである.ここでのミソは”異なる値を取りながら限りなく近づく”と言う点である.これを用いればlim[x→0] 1/x=∞ というのも直感的にわかりやすい.が,しかしこれはあくまで曖昧な定義である.ここでは極限の厳密な定義であり,大学数学の最初の関門とも言われるε-δ論法について解説してゆく.
上記の極限をε-δ論法を用いて定義したものが以下である.
このままではなんのこっちゃわからないため日本語に書き下してみよう.
”任意の正の数εに対して,ある正の数δが存在し,任意の実数xに対して,xとaの差の絶対値がδより小さいならば,f(x)とbの差の絶対値はεより小さい”
日本語にこそなったがあまり話の通じる奴ではなさそうだ.左から分解して噛み砕いてみる.
"∀ε>0"
こいつは別に顔文字の口用の記号ではなく,れっきとした数学記号である.Allの頭文字Aをひっくり返したもので,「全ての,任意の」を意味する.書き下すと,全ての数・イプシロン・0より大きい→全ての0より大きい数ε→任意の正の数ε
"∃δ>0"
こいつもカタカナのヨではない.ExistのEをひっくり返したもので「ある,存在する」を意味する.ある数・デルタ・正の数→ある正の数δ
"∀x∈R"
真ん中のEのような記号,これは「属する」を意味する.「私∈日本人」と書いて「私は日本人という集合に属する要素である」ということを意味する.続く”R”であるが,これは通例的に実数の集合を表す.任意・x・属する・実数→任意の実数x
"|x-a|<δ⇨|f(x)-b|<ε"
これをA⇨Bと略すと,真ん中の矢印は「AならばB」を意味する.すなわち,変数xがAという条件を満たすならばBも満たすということである.
これらのパーツを用いてもっととっつきやすく訳してみると,
”どんな正の数εであっても,適当なδを持って来れば,|x-a|<δを満たす全ての実数xに対して|f(x)-b|<εが成り立つ”
で,これで何が嬉しいの?グラフに表してみよう.
ここで注目して欲しいのはオレンジの線の間隔である.εが小さくなればこの間隔が小さくなることは明らかであろう.そしてもう一度定義に戻って,εに注目して欲しい.”任意の”正の数εとある.これが意味するところは0より大きい数ならどんなものでも良いということである.ではεを0.1, 0.01, 0.001, 0.000000...とどんどん小さくしてみたら?どんどん小さくなっていくが決して0にはならない.線の間隔はどんどん縮まり,bへと近づいてゆく.そう,これこそが正に限りなくbに近づくということである.
如何だっただろうか.簡単のため,必ずしも厳密でない表現を用いたところもあるが,これでε-δ論法の輪郭だけでも感じ取ってもらえればと思う.これを読んで少しでも数学に興味を持ってくれる人がいたのならばこれ以上の幸いはない.
以上,もじゃもじゃマジメ眼鏡でした.
バストロ,MCやります.
次はスーパートロンボーンメガネです.