韓国に来て4日目。
「そろそろカメラ慣れして来たかな?今朝は肩の力が抜けて、いい感じに祥くんの待つ雰囲気が出てる……」
写真を撮るから、侑(りょう)さんは大抵俺から少し離れた場所に居て、言いたい事がある時だけ、こうして近付いて来て話してくれる。
「すごく嬉しいです。俺なんかがモデルで良かったのかなって、ずっと気になっていたので」
胸の支えが取れたみたいに感じた。ホッと息を吐くと、侑さんが俺の背中に腕を回して軽く叩いてくれる。「気にするな」と言われたみたいで胸が温かくなった。
今日は穏やかな天気だと思って、こうしてプライベートビーチまで降りて来たけど、波打ち際は風が強くて、波が岩肌に打ち付けては泡になって吹き飛んで行く。
「“波の花”だ。寒いけど綺麗ですね」
立ち止まって泡の散らばる岩場に目をやる。すると、白い2羽の海鳥が仲睦まじく寄り添い、同じ空を目掛け、翼を広げて飛んで行くのが見えた。
「いいなあ。恋人同士かなあ」
「恋人が欲しいの?」
「ああ、そうかもしれない。好きな人ならいるけど、とても遠い人だし、同性だから叶わないと思うんです」
「その人に聞いてみたらいいのに」
優しい声で言われ、思わず顔を上げると、待ち構えていた彼の、柔らかな眼差しに捕まる。
「侑さん……お、れ……」
喉元に押し留めた想いが、堰を切って溢れ出してしまいそうだ。こんなの、俺の知ってる恋じゃない。
目の前のこの人に振り向いて欲しい。俺に振り向いて、俺だけを見て、俺だけを愛して欲しい。
「祥君?」
名前を呼ばれて我に返ると、自分の欲望に気付いた俺は、もう一度彼の瞳を見られなかった。
誤魔化すみたいにダウンコートを脱ぐと、寒さを物ともせず、デニムシャツのボタンを上から外して行く。
侑さんの目の色が変わって無言になると、俺は振り向いて微笑み、彼の名前を思い切り叫んだ。
「侑さん!侑さん! 」
そこから先の言葉は声に出さずに、口だけ動かして言う。さすがにここでいきなり告白する度胸は俺には無い。
『俺は貴方が好き、大好きです!』
彼への想いを口にする俺を、彼はカメラで捉えて切り取って行く。侑さんには聞こえてないけど、なんて贅沢で極上な瞬間なんだろう。
まさか侑さんがこの告白に気付くだなんて、そんなこと考えもせず、俺は溢れ出す想いを思うままに解き放っていた。
つづく
