翌朝。微かなシャッターの音に目を覚ますと、小型のカメラを構えた侑さんが、まるで陽だまりみたいな顔をして、幸せそうに笑っていた。


その笑顔を見てたら何故か涙が出そうになって、俺はまた布団に顔を埋めた。こんなに幸せなのに泣けるなんて、自分のことがよくわからない。


「おはよ、侑さん」

う、声が掠れてる……。

「おはよう、祥君。身体、しんどいよね?今日はなるべく休んでていいから」

「でも、昨日も出掛けたから、ほとんど何も……」

「僕も疲れたから、今日は一日ゆっくりさせてもらうよ。とにかく何か食べて。起きられそう?」

「はい。たぶ、痛っ!……何ですかこれ?あちこち目茶苦茶痛いんですけど。イタタタ、侑さん痛いです」 

「そりゃあ、あんなにしたら、ね」

「すみません。俺、煽るようなこと」

「僕も同罪だから気にしないで。ところで、サンドイッチあるけど、ホットケーキの方がいいかな?」

「どっちも食べます!」

「食欲があって良かった。一緒に食べよう。今日はカウルは休みだからここで」

「助かります」


それから俺達は、サンドイッチと、ホットケーキにはたっぷりとバターやジャムを添えて、遅い朝食を食べた。


「こんなに休んでて、バイト代はもらえません」と言うと、「もう振り込んだから」と、侑さんはニヤリと笑う。


仕方がないので、その日は侑さんがフィルムを現像している間に、山のようにある昔の写真の整理をさせてもらった。


彼はカメラマンのアシスタントをしていると教えてくれたけど、写真を見ていると、とても素敵な物が沢山ある。言われた通りにアルバムに写真を入れながら、欲しい物を自分用のアルバムに並べて行く。


侑さんが一番大切にしているのは、古いフィルム式のカメラで、味のある柔らかな仕上がりになると教えてくれたけど、ほんとにその通りで、写っている人や物は、何処か懐かしい雰囲気を醸し出している。


何の変哲もない交差点。陽だまりで毛繕いする野良猫達。小さな駄菓子屋に買い物に来た、幼いお客様。大きなカメラを構えた、後ろ姿の白髪の老人。


シャッターを切りながら、そのファインダーの向こうのすべてを、愛おしく想っている侑さんの姿が目に見えるような気がして、俺の頬も緩んでいる。この人の撮る写真が、切り取る世界が好きだ。


今、あの素敵な人の眼は俺だけを見ていて、俺だけを捉えて毎日シャッターを切る。1秒1秒が夢みたいで、俺は愛されている事を感じて、物語の主人公みたいに幸せだった。


こんな毎日が、この先もずっと当たり前に続くのだと、俺は彼と歩むこの先の未来を夢見て、そして信じてもいて、希望と侑さんへの想いで胸を膨らませていた。






つづく