智史さんの誕生日の夜、俺たちは少し奮発して、部屋に専用の露天風呂がついた老舗の温泉旅館に泊まっていた。

「いやぁ、本当にいい部屋だな。翔、いろいろ調べて予約してくれたんだろ? ありがとな」

浴衣に着替えた智史さんが、広々とした畳の上で寛ぎながら嬉しそうに目を細める。職人の作務衣姿も格好いいけれど、少しはだけた浴衣姿の智史さんは、大人の色気が増していて心臓に悪い。

「貴方の誕生日ですから、これくらい当然です。結局のところ宿泊費は出してもらっちゃったし ……あの、これ、俺からのプレゼントです」

カバンから大切に持ってきた小さな箱を取り出して差し出す。中身は、彼が普段使いできるように選んだ、上質な本革のキーケースだ。

「開けてもいいか? ほお、すごくいい革だな。色も俺の好きな藍色だ。ありがとう、ずっと大切にするよ」

智史さんは本当に嬉しそうな顔をして、プレゼントを愛おしそうに撫でた。その笑顔が見られただけで、何週間も迷って選んだ甲斐があったと胸が熱くなる。

「翔、こっちにおいで」

ポンポンと自分の隣の畳を叩く。引き寄せられるように隣に座ると、すぐにせっかちな腕が俺の腰を抱き寄せ、そのまま膝の上へと乗せられた。

「うわっ、智史さん……っ」

「今日はずっとふたりきりだからな。もう我慢しなくていいんだろ?」

耳元で囁かれる、いつになく掠れた声。すぐ近くから、いつもの白檀の香りと、温泉上がりの微かな湯気の匂いが混ざり合って漂ってくる。

「……はい。今日は、智史さんをたくさんお祝いしたいです」 

俺が赤くなりながらも真っ直ぐに見つめて答えると、彼の藍色の瞳に、じわじわと熱い独占欲が灯っていくのが分かった。

「可愛いことを言ってくれるな。俺はお祝いされる側だけど、流石にもう待てない」

重ねられた唇は、驚くほど熱く、深く、俺の呼吸をすべて奪い去っていく。

智史さんの器用な手が俺の浴衣の帯を緩め、はだけた肌に直接、少しゴツゴツとした職人らしい指先が触れた。その手の熱さに、思わず小さく声を漏らしてしまう。

「翔……、お前が俺の人生にいてくれて、本当に幸せだ。最高の誕生日だよ」

何度も愛の言葉を囁かれながら、露天風呂から聞こえるかすかな湯の音をBGMに、俺たちは夜が更けるまで、お互いの体温を深く貪り合うように求め合い、ひたすら溺れて行った。





おしまい