「こんなところに道?」
しばらくその道を眺めていて、俺は気付いた。これって、もしかして、もしかしたら……。
「まさか、滑走路?」
「当たり。ほら、お迎えが来た」
智史さんが指差した先から、大きなエンジン音とともに白い機体が姿を現した。夜の滑走路へ、俺たちに向かって一直線に降りてくる。
「これからあれに乗るぞ」
「えええ!?」
「星空、見るんだろ?」
案内されて乗り込んだセスナのコクピットは狭く、智史さんと隣同士で並んで座ることはできなかった。俺が前、智史さんはすぐ後ろの席。物理的な距離は近いのに、前を向いたままでは顔を見ることも、手に触れることもできない。
不安になって振り返り、縋るような視線を向けると、智史さんはヘッドセットのマイク越しに笑った。
『大丈夫、会話はできるから。使い方はね――』
ヘッドフォンから聞こえる智史さんの声は少し機械音交じりだったけれど、驚くほど耳元に近く感じられて、不安に跳ねていた心臓がすっと落ち着いていく。
程なくして飛び立った機体はぐんぐん高度を上げ、やがて厚い雨雲を突き抜けた。
視界が一気に開ける。
雨は降っていない。
広く、遠く、どこまでも続く一面の星空。
(あ、そうか。雲の上だから、雨なんて降らないんだ)
下には静かに広がる雨雲の絨毯。
上には降り注ぐような星々。まるで、星の海を漂う船に乗っているみたいだった。
空には大きな黄金色の月が浮かび、普段は見えないような小さなクレーターや細かい模様まで、恐ろしいほど鮮明に浮かび上がっている。
思い描いていた「下から見上げる星空」とは少し違ったけれど、それは胸が苦しくなるほど綺麗で忘れられない風景だった。
ホテルへと帰る夜道。
足元を照らす街灯の下で、俺はご機嫌で智史さんの手を握りしめていた。指を絡めると、智史さんが優しく握り返してくれる。
「セスナなんて予約してくれて……智史さん、本当にありがとね」
智史さんは少し照れくさそうに笑って、「喜んでくれたならよかった」と俺の手を引いた。雲の上の星空も凄かったけれど、やっぱり好きな人とすぐ触れ合えるのが何より落ち着く。
「くしゅん!」
「帰ったら速攻風呂だな。冷え過ぎには気を付けないと」
「うん……」
「一緒に入ってもいい?」
「いいよ」
「……いいんだ。ビックリ」
「だって、すげえ久しぶりだし。俺だっていちゃいちゃしたいと思ってたんだよ」
「秀くん待って。それ以上可愛いこと言われたら、俺我慢出来なくなるから、もちょっと黙ってて後で解放して」
俺の口を手のひらで塞いだ智史さんが、焦って困ってるのがとても可愛く思えて、思わず俺は舌先で彼の手をペロリと舐めてしまった。
つづく