その日は、同じ学科の後輩達の頼みで引き受けた、ちょっとした自己研鑽を兼ねた勉強会の予定だった。

ところが、放課後になり当日予約していた学習室に行くと、男子生徒が1人来ていただけで、他の学生達はそれぞれ用が出来て参加出来ないと言う事だった。

「なんだ、それなら俺に連絡くれれば良かったのに、なんで皆んな君、えっと……」

「大野です。皆んな、頼んだ手前、申し訳なくて言えなかったみたいで。俺も、気が利かなくてすみません」

「君が悪いわけじゃないから、謝らなくてもいいけど……あ、俺は佐倉翔」

用意しておいた資料を彼に渡し、目を通しながら話を進める。彼は呑み込みが早く、1時間ほどで勉強会を終えると、飲み物を奢ると言い出し、俺のリクエストを聞いて焙じ茶を買って来てくれた。

缶とペットボトルで乾杯して、2人してちょっとした達成感に一息ついていると、大野が缶コーヒーにプリントされた青い街の写真を見ながら話し始めた。

「この駅、いや、この街。めちゃくちゃ綺麗なんですよ。街の何処を切り取っても絵になるって言うか」

「えっ?本物見た事あるの?てか、そこどこ?」

「ウズベキスタンですね」

「はあ?ウズベキスタン?行った事あるんだ」

「親の仕事の都合で、ちょこちょこ海外生活してたんですよ。それで大学に入るのも1年遅れたんですけどね」

「ん?つまり君は俺と同い年ってことか。ならタメ口でいいんじゃない?」

「今更タメ口って難しいな。追々と言う事で、よろしく……です」

照れ臭いのか、しきりに頭を掻く大野が苦笑している。これまでどちらかと言えば無愛想な印象だったけど、なんだ、結構いい奴じゃん。なんて俺は少し浮かれていた。

「なあなあ?ウズベキスタンって何処にあるんだ?全然わかんないんだけど?」

部屋の隅に置かれていた、古い地球儀を見つけた俺は、子供みたいに無邪気に大野に訊ねていた。国の名前は覚えているが、場所はよくわからない。

「ロシアの下の方、かな」

「ロシアの下?ロシアでけえな、えーっと……」

「わかった?」 

大野が隣に来て地球儀を覗き込む。一瞬、その横顔が綺麗だなと思ってしまった。

「あ、あったよ、大野。ウズベキスタンって、こんなーーーー」  

慌てて意識を地球儀に戻して、探していた国を見つけ「これだろ?」と、振り向いた矢先。俺は黒い影に覆われていた。





つづく