#松本潤HBD企画2026
将が少し寒そうに半袖から延びた腕をさする。潤は自分の上着を貸そうと脱ぐが、声の掛け方がわからず、躊躇ってしまう。距離を詰めすぎれば、自分を追い詰めてしまいかねないからだ。
「先輩は、雨、嫌いですか?」
ようやく浮かんだ台詞を口にして、さり気なくパーカーで将の濡れた身体を包み込むと、彼は小さく声を上げ、潤を見上げた。
「松本君、だめだよ、この上着借りられなーーーー」
「俺は寒くないけど、貴方は震えてるから。着てて下さい」
このままここに居ても、体温を奪われて行くだけだ。早く温めないと…
「僕は君の部活の先輩でも無いし、その他に大きく関わる事もなかった。なのに、君はどうして、僕が居て欲しいと思う時に現れるの?」
真っ直ぐ心に問われ、潤は初めて将の漆黒の瞳を正面から受け止めた。
「……僕には、不思議な力がある訳でも、ずっと貴方を見張っている訳でもありません。ただ、貴方を尊敬しているし、憧れてもいる。それだけです」
「松本君……」
「それより先輩。良かったらこれ、飲んで下さい。温かいお茶です」
「よくこんなの持ってたな。いい香りだな、温かくて眠くなりそうな」
水筒に温かいお茶とは、意外な組み合わせだなと将は思っていた。潤が将を気遣って見せる、自分ではわからない優しさを、将は好ましく思っているのたが、潤はそれを知らない。
お茶を飲んで身体が熱を取り戻すと、将の気持ちが緩んで、小さな弱音が口をついて出て来た。しかし彼はすぐに口をつぐみ、恥ずかしそうに俯いてしまった。
「どうして君には、他の人には言えない事を言えてしまうんだろう?」
「さあ?チャラそうだけど、口は硬いから?」
「君はチャラくない。そうだろ?」
射抜くみたいにスパッと、まるで知っていたかのように、確信を持って言い切る将の期待を、潤は裏切れない。
「まあ、そうですけど」
しかし、その次に溢れそうになった言葉を、潤は懸命に飲み込んだ。安易に告げて良いものではないし、その事で将を傷つけたり悩ませたりしたくない。
すると、察したように辺りが明るくなり、雨が遠ざかって行く。軒下から空を見上げ、雨が止んだ事を確かめると、潤は微笑みを浮かべ、将に声を掛けた。
「雨、止みましたね。帰りましょう。送りますよ」
濡れたアスファルトに反射する夕陽が、世界を新しく塗り替えていくようだった。並んで歩く帰り道、少しだけ縮まった二人の影が地面に長く伸びる。
「……あのさ、松本君」
立ち止まった将が、まっすぐに潤を見据える。その瞳には迷いのない光が宿っていた。
「また、今日みたいに……僕の隣で、話を聞いてくれるかな?」
期待を含んだその問いに、潤は胸の奥が熱くなるのを覚える。
「喜んで。貴方の席、空けて待ってますよ」
からかうような、でも真摯な響きを含んだ声に、将は少しだけ耳を赤くして、ふっと柔らかく笑った。
淡紫に染まり始めた空の下に、さっきより少し近づいた二人の影が、重なるように長く伸びていく。雨上がりの世界は、思っていたよりもずっと温かかった。
おしまい