「ーー物凄く田舎でね、何にもないところなんです。町内に信号機が1ヶ所しかないんですよ。ふふっ」

うどんを啜るのが苦手だと、噛むように食べながら眞白が話す。

「うち貧乏なのに兄弟が4人も居てね。毎日大騒ぎで大変で……だけど、あの頃はあれで幸せだったんだなって、今になって思うんです」

「良い時代ではあったかもね。気温も今みたいに馬鹿高くなかったし」

「そうなんです。初夏になると、親子でよく夜の散歩に出掛けてたんですけど、まだ耕地整理をする前だったから、田んぼも道もぐにゃぐにゃなんですよ」

「懐かしいわあ、田舎はそんなんやったねえ」

「舗装されてない土の道を、手を繋いで並んで、ゆっくり歩くんやけど、周りに蛍が綿雪みたいにようさん(たくさん)飛んでてねえ。ふわふわした優しい光に包まれて、ほんまに綺麗やった」

ところが、連れ帰って蚊帳の中に放していた蛍は、翌朝には全部死んでしまっていたこと。それを片付けて捨ててから、蛍を捕まえるのはやめた事。 

取り留めのない思い出をしばらく話すと、彼女は席を立った。

「スイートさん。色々ありがとうございました。勇気出して帰ります。それで、また来ます……必ず」

「無理は禁物だよ」

「はい」

それから眞白は、看取り休暇を取って田舎に帰ると母親を看取り、葬儀を終えてから病棟に復帰して来た。

それからまたしばらく経って、彼女は土産を手にスイートの店にやって来た。

「スイートさん、お久しぶりです。これ、うちの近所の和菓子屋のお勧めです」

「ありがとう。素敵な名前のお菓子だね」

「この名前を付けたの、母なんですよ」

“ホタルの降る里”

「ゔっ、うっ……」

「智さん、突然もらい泣き?」

「あっ、さ、櫻井君、と大野君……」

(ヤバい。こんなところ同僚に見られたら殺される)

「ワタシカエリマス!」

「「まあまあ飲んでからにしなさいよ〜」」

「オレンジジュースで絡まないで!」

「「だって此処、ソフトドリンクの店だもん」」

「スイートさん、またこの人達の居ない日に来ますんで、よろしくです!じゃ、2人ともごゆっくり!あと、大野君ありがとね!」

眞白と共に慌ただしさが店から消えて行く。それから数分経って、大野は突然櫻井に問い掛けた。

「さっきの川口の“ありがとね!”って、何に対してだったんだろう?」

「そりゃあ、スイートさんのお店を教えた事に対して、だと思いますけど?」

「あ、そっか。それなら良かった」

「……なんだよ、ニヤニヤしちゃって」

「してねえよ」

「してたよ」

「ヤキモチ?」 

「当たり前だろ、こ、恋人なんだから」

「……翔ちゃん可愛い♡」

「商売上がったりだね。今日はもうクローズにするか。どうせまだ食べるだろ?」

「「もちろん♡」」

今夜は山夫婦の貸切である💙❤️





soft drink bar sweet
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