《翔》
何故か毎年、受験日前になると、天候が荒れたり不安定になりやすい。
それを念頭に置いていた俺は、青野と相談して同じホテルに泊まる事にしていた。もちろん部屋は別だが、心強い気がする。と思っていたら。
「は?同じ部屋?」
「誠に申し訳ございません」
何故か俺達の予約が同じ部屋になっていた。しかもベッドはダブルで、当たり前だが1つしかない。この時期、代わりの部屋は無く、キャンセル待ちも難しいと言う。
「あ、それでいいです」
青野が口に出した言葉に、フロントスタッフの視線が集まる。
「友達なので、一晩くらい大丈夫ですよ。他を探す方が難しいと思いますから。だよね?朝倉君」
「そうだね、青野君」
こうして、受験前夜に俺達は同じ部屋(しかも同じベッド)で過ごすことになった。
予報通り、俺達がチェックインした後ぐらいから降り始めた雪は、街を白く覆って行く。コンビニで買った物を適当に食べると、交代で風呂に入った。
先に上がった俺が、ぼんやりニュース番組を観ていたら、青野が俺の頭を撫で「乾かしてねえじゃん」と、ぶっきらぼうに言った。
『風邪引くから、ちゃんと乾かせよ』と言いたいわけね。はいはい。と思ってドライヤーを取りに行こうとしたら、先を読まれた上に、ドライヤーをされてしまった。
「自分でするからいいよ」
「まあまあまあ」
他人に髪を乾かしてもらえるなんて、美容室ぐらいだと思うけど、気持ち良くてうとうとしてたら「まだ寝るなよ〜」と可愛く拗ねられた。
「何で?」と聞くと「何も飲んでないだろ?脱水起こすぞ」と言う。それから青野は特製ドリンクとやらを作って飲ませてくれたのたが、これがめちゃくちゃ不味かった。
「不味い。何これ?」
「梅干し白湯の冷えたやつ。脱水予防には効くぞ」
「好んで飲みたくはないな。気をつけるよ。それより、今ので眠気が綺麗さっぱり吹き飛んだんだけど、どうしてくれるんだよ?」
「すまん。ええと、ヒツジでも数えるか?」
「今時誰もそんな事して寝ないって。そうだな、何か歌ってくれたら寝れるかも」
「日本語じゃなくてもいいなら」
「いいけど、日本語以外って歌えんの?」
「下手でも笑うなよ」
「それはどうかな」
Corro nel vento della landa desolata
コロネル ヴェント デラ ランダ デソラタ
荒れ果てた大地の中を僕は駆ける
E in questo momento sento qualcosa
エイン クエスト モーメント セント クゥアルコーサ
「これって、これって……」
その夜、青野の意外な特技に感動した俺は、彼に何度も同じ歌を唄わせ、上機嫌で眠りについたらしい。
だって、懐かしかったんだよ。
昔やってたゲームの中で、一番好きな歌だったんだ。
つづく