《青野》
何枚かの写真を撮り終えると、俺は朝倉をベッドの上に座らせ、デッサンを描き始めた。
、
彼は服は着ているが、シャツのボタンがいくつか外れていて、その下の肌が見え隠れするのに唆られる。
寝起きみたいな癖毛の跳ねた髪、とろんと眠そうな瞼をごしごしと手で擦ると、俺の方を向いて照れ臭そうに微笑む。
「……なんでハヌルとはしなかったんだ?俺なんかより、よっぽどいい男だろ?」
「いくらいい男でも、その気になれない相手だっているさ。俺にだって好みぐらいあるよ」
『それじゃあ、俺はどうなんだ?』と聞きたかった。けれど、どうも今は聞かない方が良さそうな気がする。
俺は込み上げた問いを胸に押し戻すと、鉛筆を持つ手と視線の先の朝倉に集中して行く。
何の音もしない部屋の中に、鉛筆が紙の上を走る音だけが聞こえて、俺は無心で朝倉の物憂げな横顔を紙の上に再現していた。
「…………これが俺?」
出来上がったデッサンを見て、朝倉が眼を瞬く。しばらくその絵を見てから、彼は俺をしげしげと覗いて言った。
「こんなに上手いとは知らなかったよ。美大って冗談じゃなかったんだな」
「冗談でモデルなんか頼むかよ。俺だって大真面目だ」
「うん。わかるよ。すごく素敵な絵だもん。ちょっと、なんて言うか、感動した……綺麗に描いてくれてありがとう」
「言っとくけど、別に美化して描いてないからな」
「えっ?あ、う、うん」
「俺にはお前がこう見えてるんだよ」
「ふはっ!どんな眼してんだよ。夢見過ぎだろ。この絵、誰が俺だって言うんだよ。ホントもう……」
ひとしきり笑い合って、俺の瞳が朝倉の瞳を捕らえる。彼は一瞬、視線を外そうとしてそれを止め、もう一度俺の眼を見た。
そうして瞼を閉じた彼の、懐かしく芳しい唇を、俺は慎重に喰む。しばらくして、「ああ」と口を開けた彼の背中を抱きしめ、そっとベッドに寝かせると、俺は部屋の明かりを落として、お気に入りのランプを付けた。
「……好きだね、そのランプ」
「うん。翔ちゃんが一番綺麗に見えるんだ」
「そんな理由?」
「悪い?」
「いや、恥ずかしいけど、嬉しいよ」
明かりの下で、白い身体が波打つ。
それはまるで、お伽話の中の人魚のように見えた。
つづく
