《翔》



高3になってからは、意外に勉強が楽しくなった。頭の良い奴の周りには、頭の良い人間が自然に集まる。


ハヌルとは、本当に付き合っていた訳ではないが、仲間と勉強する時には時々一緒だったので、様々な勉強の方法がある事を知った。

 
外国人も居たから、英語も耳にする機会が増えたし、何より勉強しようって言う気になりやすい。環境って大事なんだなと、俺はつくづく思っていた。


3年の夏休みが始まってすぐのこと。久しぶりに青野から連絡が来て、俺は青野の家の彼の部屋で彼と対面した。


「翔ちゃん。本当はあのハヌルってヤツとは、セックスしてないだろ」


思いがけず唐突に本当の事を言われて、咄嗟に言葉に詰まってしまい、上手く答えられなかった。


内心マズいと焦れば焦るほど言葉が紡げず、視線を合わせる事も出来ない。完全にバレたと思うと、冷や汗が背中を伝い落ちるのを感じた。


「やっぱそうか。だと思ってたけど、翔ちゃんって、嘘つくの向いてねえなあ」


口を噤んでしまった俺を見て、青野は苦笑いする。笑い方が大人っぽく見えて、一瞬鼓動が跳ねた。


「………ごめん」


漸く絞り出した言葉に、青野は「いいよ」とまた笑って「責めたい訳じゃあ無いんだ」と続けた。


「実は俺、美大受けることに決めたんだけど、その提出する作品のモデルになって欲しいんだ」 


「はい?俺に?今ここで?」


「そうそう」


「裸になれと?」


「そんなの提出出来るか。普通に後ろ姿か、せいぜい横顔かな」


「そんな大事な事に、俺なんか使っていいのか?」 


「うん、翔ちゃんがいいんだ」


「ならいいけど、俺、何すればいいの?モデルなんて、やったことないから、全然わかんないよ」


「カメラあるから、何枚か撮ってみて、それからデッサンする。とりあえず楽にして、その辺に座ってて」


「う、うん」


と言っても座るなら、ベッドか勉強机の椅子しかない。ここでいいのか?と確認したら、描く時に背景なら何とかすると楽しそうに笑う。


こんな表情で笑う彼を、俺は今まで見た事が無かった。俺の知らないところで、彼もまた様々な葛藤をしていたのかもしれない。


俺のせいかもしれないと思うと、胸の奥がズキンと刺すように痛んだ。





つづく