こう言う日に限って、狙ったみたいに両親は揃って泊まりで出掛けている。
仕方なく雅紀と2人で夕飯を食べたが、雅紀は普通に話しかけて来るし、受け答えもしてくれる。
「……なんか、今日は普通だな」
俺がしみじみ訊くと、雅紀は小さく笑って「好きな人と普通に話すのって、すっ……ごく難しいと思わない?」と、俺の眼を真っ直ぐ見つめて、悪戯っぽく問い掛けた。
「え?」
一瞬、言われた事の意味が理解出来なくて戸惑う。すると、テーブルの上に置いていた俺の指先に、そっと雅紀の長い指が触れる。
俺がじっと見ていると、彼の指は愛おしげに俺の指の間に入り込んで、ぎゅっと握られる。
「………好きなんだ。翔兄のこと」
ポツリと漏れた言葉の中に、すべての答えが含まれていた。何もかも、俺の事が好きだから、だったのか。
驚いて顔を上げると、思いがけず真剣な表情が在って、眼を逸らせなくなってしまった。こんな眼で見るなんて、俺の知ってる弟じゃない。
「ごめん。雅紀、俺……」
何の「ごめん」何だろう?自分で言いながら、よくわからないなと思った。
「青野さんと付き合うの?さっき告白されてたよね」
やっぱり聞かれていたか。しかし、俺は何故か青野と付き合う気は無かった。これから受験の事を考えると、即付き合おうぜ!とは言えなかったのだ。
「俺は誰とも付き合わない。受験が終わるまでは」
「まだ時間あるのに?」
「お前にはあるだろうが、俺には足りないぐらいなんだよ。頼むから邪魔しないでくれ」
「邪魔だなんて、そんな……だいたいどこの大学目指してるの?恋も出来ないなんて」
「D大」
「ええ!?それって日本一の?」
「だから、応援してくれるだろ?」
「翔兄ズルいよ。そんな事言われて、応援しなかったら、俺、まるで悪者じゃん」
「悪者って、雅紀が一番なれなさそうだな」
「ならないし、なりたくもないけど、翔兄を捕まえる為ならなってもいいかな」
雅紀の手は、まだ俺の手を掴んで遊んでいる。
「悪者になんてならないで、ずっと弟のまま側に居てくれるならいいのに」
呟いて、これは危険な考えかもしれないと思った。青野に好きだと言っておいて、雅紀にも側に居て欲しいなんて。
幸い雅紀には聞こえていなかったみたいなので、俺はその事について彼には何も言わず、そっと彼の手を解いて温かな手の中から抜け出して行った。
つづく