《祥》


ラブホテルと言えば、真っ先に思い付くその目的は“セックス”だ。その一室に付き合い始めて間もない恋人と2人篭って抱き合えば、濃厚な薔薇の香りに煽られ、箍(たが)が外れて行く。


特に今日は、あの人との再会と言う大きなイベントが終わって、緊張感が解けたのもあって、より気持ちが緩んでいた。思ったよりずっと普通に彼と話せて、言いたいことが言えた。


と言うか、驚くほどき言いたい事が無かった。これがもっと前なら、未消化の恋心に呑まれて感情的になったり、鬱々とした気持ちをぶつけていたと思う。


そんな事をせずに済んだのは、一重に今目の前に居る、この人のおかげに他ならない。だけど言えば智史さんは、違うと言って否定してしまうだろうから、俺がこの瞬間出来るのは、何もかも忘れて彼に夢中になる事だけ。


キスの合間に移動しながら浴室を出て、何故か楽しくて笑いながらお互いをバスタオルで拭いて、ベッドに雪崩れ込む。智史さんが部屋の明かりを落とすと、俺はベッドに押し倒されていた。


直ぐにのしかかって来た彼の、荒い息遣いも重さも、何もかもが嬉しくて愛しくて仕方ない。もうずっと前から、この瞬間を待ち望んでいた。それがいつからだったのか、それはわからないけれど。


「……っ、う!あ、あっ、だめ!」


俺が辛そうに見えたんだろう。挿れようとして、躊躇う彼の眼を見つめた。駄目じゃない。早く俺を貴方のものにして欲しい。だけど、こんなこと言っていいのか。


「はやく、ぜんぶ、さと、さん……」


それしか言えなかった。だけど、それで良いみたいだった。ぐんと俺の中の彼が大きさを増し、奥まで辿り着いて、ようやく俺達はひとつになれたと感じることが出来たからだ。


多分、俺達はお互いを大事に想うあまり、これまでも進めなくて迷って、そんな事を繰り返していたんじゃないかと思う。


「智史さん。好き、大好きだよ」


そう言ってキスを強請ると、彼は大いに困った顔を見せて、イきたくて大変そうだった。別に気にしなくていいのに、早くイク奴だと思われたくないって、やっぱり男なんだよな。


それより問題なのは、そんな智史さんの新しい面を見ては「好き」「可愛い」ってドキドキしてる俺の方。まさかまだ好きになる伸び代があるなんて、そんなこと思ってもみなかったからさ。


それをそのまま伝えたら、智史さんは「幸せ過ぎて困る。何?俺今日死ぬの?」と焦っていた。俺は笑って「大丈夫大丈夫」と智史さんの肩を叩く。
 

彼との関係が、変わったなと感じたこの日は、奇しくも智史さんの誕生日だった。




つづく