《祥》


約束の当日。
俺は侑さんの部屋で彼と対面していた。
ちなみに、今日までに智史さんとエッチをすると言う俺のヨコシマな願いは、何かと邪魔が入って叶わないままである。


智史さんの配慮で、俺は侑さんと2人きりで向き合っている。緊張や動揺で上手く話せないかもしれないと予想していたが、思っていたよりずいぶん気持ちは落ち着いていて、言葉は滑らかに口から出て来た。




「今日は来てくれてありがとう。本来なら俺が出向いて詫びに行くべきなんだが、まだ長時間の外出は難しくて。申し訳ない」


8ヶ月ぶりだったか。久々に会った彼は痩せていて、それでもいくらか元気そうに見えた。一瞬、駆け寄って抱きしめたくなったのを、グッと堪えて踏み止まる。


「おかしいと思ってたんです。侑さんは、突然音信不通にしたりして関係を断ち切ったりしない。あの時は、死を覚悟されてたんですよね?それなら、納得出来るんです」

「ドナーが見つからなくて、とても希望の持てる状態ではなかった。君とこうして会えるなんて、夢にも思わなかったよ。これ、約束してた君の写真集。もらってくれるかい?」

「完成してたんですね。ありがとうございます。後で一人でゆっくり見ます」

「祥、あの時は本当にーー」

「謝らないで下さい。貴方のお陰で、俺、近くにいる大切な人に気付けたんです」

「小野君の事だね」

「はい。今は一緒に暮らしてます」

「良かった。君達がくっついてくれて安心したよ」

「どうして侑さんが安心するんですか?」

どうも話がよく見えない。

「だって。君はずっと小野君の事が好きだっただろ?自覚はしてなかったと思うけど」  


へ?そうなのか?ん?それを知ってたから熱心に口説いてたのか。いや、それは病気が理由だったはず。


「侑さんて、結構悪い人だったんですね。なんて、今日は本当に会えて良かったです」

「悪い人ねえ。ああ、ケーキぐらい食べて行くだろ?とびきりのを用意してるんだ」

「それは断れませんね。和紅茶を持って来たので、良かったら一緒にどうですか?」

「それはいい。ニノも和紅茶が好きなんだ」


侑さんは、二宮さんについて多くを語らなかった。だけどこの時、ふっと笑った顔を見て、侑さんがとても幸せなんだなと思った。


そうして俺達は(一応)和やかなティータイムを過ごして、お土産のお菓子までもらい、肩を並べて帰路に着いた。


陽が沈みかけていて、辺りは茜色に染まっている。空の奥で赤と青が混ざり合い、やがて赤の比率が減ると紫が増え、青と馴染んで本格的な夜の色に染まり出す。


「マジックアワーですね」
「たそがれ時じゃないのか?」  
「どっちも正解だと思います」


微笑んで目元をくしゃっとする彼が、愛しくてたまらない。ちょうど細い路地に入ったので、俺は彼の背中をビル壁に押し付けると、驚いて薄く開いた唇を塞いでいた。






つづく