☆いちごCPのお話☆
ふとした瞬間に、その人の顔が頭に浮かぶ。その頻度が次第に増えて行き、いつしか四六時中その人が頭の片隅に居る。
その頃は、まだその現象が何なのか、よく解ってなかった。だからいつもその人に対して、無愛想な態度だったかもしれない。
「松本。これ、落としてたぞ」
そう言って渡された、きちんと畳まれたボクサーパンツ。ウエストゴムのところに「マツモト」って買いたのは勿論俺自身なんだけどさ。
「うわ、すみません!」
慌てて受け取り、タンスに仕舞い込んだけど、恥ずかしいことこの上ない。洗濯済みので良かったと、変なところでホッと胸を撫で下ろすと、クスッと笑ったその人と目が合った。
(綺麗な瞳……)
同室で同じグループのリーダー。大野智先輩。
最初のうちは、年上に見えなくて。何なら男にも見えないぐらい可愛い顔立ちをしていた。なのに、デビューしてからの彼は、ぐんぐんカッコ良く、そして美しくなって行く。
同じ部屋で暮らしているが、彼の事はあまりよくわからない。ただ、気付くと部屋に居なくて、いつの間にか戻って寝ていたりする。まるで忍者みたいに気配が無いのだ。
ただ、何処かでめちゃくちゃ練習していると言う事だけは、彼を見ていれば嫌でもよくわかった。特にダンスのレベルではこの事務所内に彼以上に踊れる者は居ないのではないかと思う。
羨望が憧れになり、いつしかその形を変えている事に気付いても、俺はその想いを捨てられなかった。尊敬する先輩を想う気持ちは、次第に俺の中に深く根を張り広がって行った。
「おい、大丈夫か?」
いつまでも自分を見つめたまま、ぼんやりしている俺を案じて先輩が声を掛ける。そこでようやく俺は我に返った。
「何でもありません。ありがとうございました」
答える声が、上擦っている。バツが悪いとはこのことだ。と、1人内心焦っていたら。
「虹が出てる……」
声と同時に窓を開ける音が聞こえて、窓辺に寄ると空に掛かる大きな虹が見えた。今朝まで雨が降ってたからかな。
「今年初めて虹見ました」
ポカンと空を見上げて呟くと。
「初虹だな」と彼が笑って。
「はつにじ……」
「俺も今年初めて見たわ。へへ」
俺は、そう言って眉を下げてふにゃりと笑った彼を、いつまでもこうして独り占めしていたいなと、胸の内で密かに思ってしまって。この気持ちが恋なんだと、やっと認める事が出来たのだけれど。
どう考えても、前途多難で厄介な恋の予感に、ため息しか出なかった。
おしまい