俺を受け止めた侑さんから、
咄嗟に離れようとした。
けど、それは出来なかった。


俺の背中に回した彼の腕は、見た目よりずっと力強く逞しく、そして温かかった。


「本当は、僕の方が先に君に恋をしていたんだ」


ポツリと侑さんが、意外な事を口にする。


「君が僕を好きになってくれたらいいのにって、そんな事を考えながら、毎日あのコンビニに通ってた」

「意外です。侑さんがそんな事を考えてたなんて」

「ごめんね。ズルい大人で」

「狡い?そんな事思いません。だって、俺の気持ちは俺のもので、他の誰にも動かせない。侑さんは、コンビニに通ってくれただけでしょう?」

「ありがとう、祥君は優しいな」

「侑さん、ちゃんと言って下さい。俺のこと、どう思っているのか」

「好きだよ、祥君」


耳元で囁く声が甘くて、俺の髪を撫でていた指先が首筋に触れ、俺は侑さんの瞳を見た。深い漆黒の瞳が弧を描いて柔らかく俺に微笑むと、俺の瞼は誘われるように閉じて行く。


そっと触れただけの唇は直ぐに離れて、物足りなかった俺は「これで終わり?」と目で問い掛けた。察しの良い彼は即座に気付いてくれ、今度は少し長めに唇を押し当てる。


それを何度か繰り返しているうちに、互いの唇がしっとりと馴染んで、より柔らかさを増して行く。それはキスと言うより、お互いの想いを確かめ合う、何か神聖な儀式にも似ていた。


しばらくそうしていると、若い2つの身体は素直に反応を始める。しかし、このままするのかと俺が不安を感じ始めると、彼は俺を一度ぎゅっと抱きしめ、耳打ちしてから部屋にお帰りと放してくれた。


『今はまだ、コトを急(せ)いて君を傷付けたくない。まだお互い心も身体も準備が必要だと思うんだ。今夜は僕の夢を見て、ゆっくりおやすみ』


そんなの気にしなくていいのに。と、あまり深い知識のない俺は、侑さんの事をちょっと憎らしく思っていたのだけれど、その後調べた“男同士の交わり”を読み漁って、自分の考えがいかに浅はかだったかを思い知る。


その日は、ベッドの上で侑さんとの会話を思い出したり、キスした事を反芻しながらジタバタしていたから、いつ眠ったのかも覚えていないけど。


彼の出て来る優しい夢を見たような気がする。
 




つづく