《智史》


彼とは、アルバイト先のコンビニで出会った。


「はじめまして。佐々倉祥です。今日からお世話になります。よろしくお願いします!」


第一印象は「可愛くて元気なヤツだな」ぐらいのものだった。ところが、その日のうちに俺の身体におかしな事が起きた。


「あのお、小野先輩って呼んでもいいですか?」


頬を染めて恥ずかしそうにもじもじしながら、上目遣いで見上げる新入りのアルバイトに、俺の下半身が素直に反応してしまったのだ。


いやいや!なんでそうなる?


気のせいだと自分に言い聞かせて、大丈夫だと落ち着いたところで、「小野先輩!お疲れ様でした!」と、満面の笑みを浮かべた佐々倉が、俺に向かって小さく手を振りながら通り過ぎた。


(めっちゃ可愛い……)


相手は男なのにまた下半身に来て、俺は帰宅するなり彼をおかずに抜いてしまい、激しく動揺して更に落ち込んだ。しかしここまで来ると、もう自分を誤魔化す事なんて出来なかった。




それから約2年。


俺の少しの努力と、彼のとんでもない鈍感力のおかげで、俺の佐々倉への恋心は、全く気付かれる事もないまま、専門学校生だった彼は、卒業してバイトを辞めてしまった。


「だから言っただろ?早く告白してモノにしろって。時々いるんだよ。あの手の、顔も性格もいいのに、とてつもなく鈍感な子」


店長の見立ては割と当たる。
俺のわかりやすいアプローチは、ことごとく良い人と言うカテゴリーに分類されてしまい、佐々倉にとって俺はずっと“バイト先のいい先輩”でしかなかった。


それでも、佐々倉が他の誰かに恋をする気配は、まるで無かったし、俺に懐いてくれていたから、俺はそこで妥協していたと言うか、フラれる勇気も無かったから告白出来なかったんだ。


なのに、あの成瀬と言う男に対する佐々倉の態度は、最初から俺へのものとは全然違っていた。


恋をした彼がどんな風に変わるのか。俺の目の前で、それはまるで毎日上映される日替わりの映画作品みたいに、悔しいほど目に見えてわかりやすかった。


まず、誰が見ても綺麗になった。
気付けば毎日、店の何処かで誰かに口説かれている。本人は慣れているので殆ど聞き流しているが、どうやらモテているとも思ってなさそうだ。


それにしても、可愛さまでアップして油断出来ないなと思っていた矢先、成瀬は佐々倉にモデルのアルバイトを頼んで、あろうことか佐々倉はそれを受けてしまっていた。


(やられた、先を越された)


と思った。撮影場所の家かホテルに彼を連れ込んで、何か良からぬ事をするつもりなんだと勘ぐった俺は、佐々倉を食事に誘い、成瀬と言う男の事をあまり信用するなと忠告してみた。


しかし、佐々倉にしてみれば、俺は好きな相手の悪口を言う嫌な人間でしかない。俺の心配をよそに佐々倉はさっさと成瀬の元へ渡韓し、俺は1人日本で鬱々と過ごしながら、毎日ため息を吐いていると言うわけだ。


だからって、あんな電話なんかして情けないよな。なんでもっと早くに、ハッキリ伝えなかったんだ。まだ告白して振られてた方がマシだったじゃん。


「……佐々倉。俺、お前が好きだ」


言えなかった言葉が白く凍って、
儚く砕けながら夜空に消えて行った。





つづく