*消失を補完しました。
《和也》
「おかえり、和也。バイトにしては、帰りが遅過ぎないか?」
帰宅早々、ダイニングで待ち構えていた兄にチクリと言われ、俺は彼から目を逸らした。
「ごめん。友達とコンビニに寄って来たから……」
言い訳を口にすると、買って来たシャーベットの入った袋を兄に押し付けて通り過ぎる。
自分の部屋に入ってベッドに寝転がると、ようやく俺は兄と言っても血の繋がらない赤の他人、智義兄(さとにい)の顔を思い浮かべて大きな溜め息を吐いた。
大学生になると同時に一人暮らしを始めた智義兄は、就職しても家に帰って来なかった。
そこで俺は、わざと義兄の住む近くの大学を受験し、彼の暮らす部屋に転がり込んで半ば強引に同居を始めたのだ。
「智義兄のバカ……」
枕を抱きしめてそっと呟く。けれど、あの人の事を本当にバカだなんて思った事は一度もない。
むしろ逆だ。頭が良いのにそれをひけらかす事なく、物腰の柔らかな彼に、幼なかった俺は不思議なくらいするすると懐いた。
出会ってからしばらくの間は、俺たちは本当の兄弟よりも仲睦まじく、兄弟らしかったのではないかと思う。
(いつからこうなったんだっけ?)
俺は布団に潜り込んで目を閉じ、過去の記憶を手繰り寄せてなぞる。
智義兄がシャーベットを袋から取り出し、冷凍庫に入れてから、何故か袋の中のレシートをじっと見つめていた事なんて、知る由もなかった。
つづく