あれから時が流れ、佐智子も雅紀の事を次第に忘れて行き、20年以上の月日が過ぎていた。
やがて大人になった翔が、恋人として雅紀を紹介しても、佐智子はすっかり雅紀を初対面だと思って、恋人の良き母としてあろうと、慎重に丁寧に彼と接していた。
ところが、雅紀を紹介されてから少し経ったある日、実家の母から佐智子宛に荷物が届く。荷物と言っても薄くて平たい箱なので、食べ物などでは無さそうだ。
いつもなら、翔や佐智子の好きな実家の名産品や母の手作り料理など、美味しい食べ物を詰め込んである段ボール箱なのに珍しい。母は今日は一体何を送って来たのだろう?
「この期に及んで、まさか翔にお見合い写真とかじゃないわよね?あら、これはアルバム?『翔と雅紀くん』て、これ私の字だわ。こんなの持ってたかしら?翔が幼稚園の時の物みたいだけど……」
ページを捲って中身を見ると、爽やかで愛らしい笑顔の少年が、翔の隣に写っている写真ばかりだ。よほど仲が良かったのだろう。写真の枚数がとても多くて、アルバムに貼り切れなかったようだ。
残った写真は、最後の袋状になっているところにまとめて入れてある。佐智子は自分のやりそうな事だと苦笑いした。
最後のページの、大きく引き伸ばされた少年の写真が貼られていた。これだけ雅紀少年は1人で写っていて、硬い表情をしている。
添え書きには『翔が工作ハサミでカットした“まあ君”』と書かれていた。
佐智子の脳裏に、息子が他所の子の髪を切って幼稚園から呼び出された“散髪事件”が浮かび上がって来る。あの時は幼稚園に着いて、相手の子の髪を見るまで、気が気ではなかった。
(………ええっ!?ちょっと待って。雅紀さんって、幼稚園で一緒だった、“この”まあ君だったの?嘘でしょ?)
しばらく佐智子はアルバムを食い入るように見つめていた。散髪事件の時のあの子が、今現在の翔の大切な人ですって?しかもこのタイミングでアルバムまでここに戻って来るなんて。とても偶然とは思えない。
しかし、再会のはずの2人は、全く幼稚園の事を話しておらず、思い出している訳ではなさそうだ。なのに彼等は、再び出逢って恋人としてここまで来たのだ。
あの時、雅紀の母の美智子は、2人の事を“運命の恋人”なんてロマンティックな呼び名を付けていたが、本当にそうなのかもしれないと、佐智子は初めて素直にそう思っていた。
程なくして佐智子の元へ、雅紀の母・美智子から、約20年ぶりに手紙が届けられたのである。
つづく