初めて見た瞬間から、この人にときめいていた。顔と言い声と言い、その立ち振る舞いと言い、何もかもが好みだった。
彼は最初、俺のことは意識してなくて、髪の毛ばかり見ていた。それは美容師だから当然と言えば当然なのだが、仕事に対する意識の高さを窺わせた。
そして、リリちゃんを教えた時の笑顔と、その後の対応は、素晴らしいものだった。
アニメキャラかと馬鹿にすることは一切なく、真剣にそのヘアスタイルを俺に似合うよう、人に合わせて落とし込んで行く。
しばらくして俺は、リリちゃんカットの何倍もカッコいい若者になっていた。これはこれは、予想以上の腕前だ。こんなに満足したのは、いつぶりだったか。
本当なら髪を染めたいところだけど、今はまだ傷みがあるから、しばらく染めないでおいて、髪の状態を見ながらと言う話しになった。
しかも彼は、俺が他の美容室に通う事も踏まえて、今日の施術内容をメモまでして手渡してくれたのだ。
その頃には櫻井さんが俺を意識し始めてくれてる事には、気が付いていた。チラチラ俺を見ては、頬を染め、目を逸らしては同じことを繰り返す。
多分これまで彼は、同性に惹かれたことが無いのだろう。懸命に胸を押さえ、自分を落ち着かせようとする彼の姿は、逆に俺の抑えていたモノを解き放っていた。
だけど、キスした勢いでガラステーブルの上に押し倒して、見上げる彼の怯えた目を見て、俺は我に返って己を恥じた。
「ごめんなさい。無理矢理こんなことをして、こんなの犯罪ですよね。警察に突き出してもらって構いませんから」
「警察だなんてとんでもない。だけど、それならその代わ後2回うちに来て下さい。その頃には髪も綺麗になってるはずなので」
「櫻井さん。恋人は?」
「居たら今頃ここに居ませんよ」
「じゃあ、もうひとつ。俺じゃあダメですか?」
「えっ?」
「突然こんなこと言ってすみません。だけど今貴方がフリーなら、少し考えてもらえませんか?俺、悪くはないと思うので」
「ふはっ!言い方」
「ヤバい!母さんから電話来てる。帰らなきゃ!」
「タクシー呼びましょうか?」
「いや、秘書が迎えに来るから」
「秘書?」
「あ、お金!これでお願いします」
「かしこまりました。ありがとうございました」
こうして俺は、ほぼ一目惚れした(と思っていた)彼の美容室に通い始めたのだった。
つづく
