*この作品は『俺の恋は上手く行かない』の元になったお話で、読者の方から頂いた『言葉』を使って書いています。2025.


紫陽花、桜、花、乙女椿、虹、青空

風、凪、空、宇宙、翔ける、理(ことわり

秘密、日々是気付、熱視線、面影、

夢、わんこ、ひたむき、ありがとう



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東京都内でも評判の和菓子屋『ひたむき』は、午後にはほとんどが売り切れる人気店である。


普段は取材などは断り、常連のお客様を大切にしているが、物価高騰に伴う値上げを余儀なくされ、今日は店を締め切って新作和菓子の取材が、秘密裏に行われていた。



「櫻井さん、お待たせしました。こちらが新作の和菓子になります」


「わあ、すごく綺麗ですね。食べるのが勿体無い気がします」


職人の大野が運んで来た和菓子に、取材に来ていた人気アナウンサーの櫻井が目を見張る。


「ありがとうございます。やはり目で楽しむ物でもありますから。美しい事は大切な要素なんですよね」


櫻井に説明しながら、和菓子職人の大野はチラと窓の外を見上げる。一面に広がる青空に、時折桜の花びらが舞っている。


今頃なら海は朝凪で、釣りには絶好のタイミングなのだが。残念ながら今日はこの取材があるから、抜け出せそうにない。


「大野さん、和菓子の説明をお願いします」


櫻井が最もな事を尋ねる。確かに、和菓子の名前すら説明して無かった。


朝の人気番組の中で、自分の担当する『熱視線SHOW TIME!』のコーナーで、以前から気に入っていたこの店の紹介をする櫻井は、前のめり気味に熱心だ。


「ああ、すみません。これが「桜」こちらが「紫陽花」こちらが「虹」それからこの桃色のが「乙女椿」です」


この時期の物ではない練り切りもあるが、すべて大野が気に入っている物ばかりだ。


「もう少し詳しい説明をお願いしてもいいですか?タイトルだけだと番組になりませんので……」


櫻井キャスターの言う事は最もである。しかし、大野は後輩にそれを任せる事にした。


「それなら、相葉ちゃん、和菓子の説明頼むわ。俺こう言うの苦手だから任せる」


「えっ?僕も苦手なんですけど、ああ、行っちゃった。あの人に先輩としての理なんて通じないとは思ってたけど。いい加減と良い加減の使い方が絶妙なんだよな」


「すみません。俺、何か大野さんを怒らせることを言いましたか?」


櫻井キャスターが不安げに相葉を見上げる。そんな櫻井にドキッとして、雅紀は自分自身に驚いた。


『日々是気付』と言う貼り紙が厨房にある。『日々是好日』を元にした物だけれど、この気付きは何なのだろうか?


「いえいえ、櫻井さんが気にする事は何もありませんから。後の説明は僕からさせて頂きますね。あの、僕、相葉と申します」


「櫻井翔です。貝2つの櫻に、天翔けるの翔。今日はどうぞよろしくお願いします」


天(あま)翔ける?カッコいい言葉を使う人だなあ。キャスターって、こんなものなんだろうか?


「あ、俺は雅紀。相葉雅紀です。えっと、こちらの「虹」は水色の練り切りを空に見立ててーーこちらの「宇宙」は葛切りの中に金粉を入れてます」


「ええと、相葉さんはこちらのお店の跡継ぎとお聞きしましたけど、あまりお父様には似ておられ……あ、失礼な事をすみません」


あまり前の大将には似ていないように思えて、櫻井は思わず口にしていた。雅紀の顔立ちにその面影を全く感じなかったからである。


「僕は母に似てるんですよ」


「そう言えば、男子は母親に似るって言いますね」


『ワン!ワンワン!!』


突然、犬の鳴き声が何処からか聴こえた。どうやら櫻井の着信音らしい。ワンコの鳴き声なんて面白い人だなと、犬好きの雅紀は思っていた。


スマホの画面を見てふふっと笑った櫻井が、不意に小窓を見上げて目を細める。まるで、夢見る乙女だ。花のような唇が少し開いて、前歯が見えるのも愛らしい。


だけど、このドキドキは、何だろう?何故か誰にも知られてはいけないような気がして、雅紀はこれを秘密にしておかなければと強く思った。




おしまい*



*如何でしたでしょうか?

協力して下さった皆さま、ありがとうございました照れまたいつかお願いする事もあるかと思いますが、よろしくお願いします飛び出すハート