*『シャーベット』続編




《 智 》




横になってからどのくらい経っただろう?
眠れなくて時計を見ると、午前2時半を過ぎていた。


起き上がってキッチンに来て、冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを飲む。和也が居ない時は1人が当たり前で、それをどうこう考える事は無かった。


なのに今は、見慣れたはずのキッチンが、恐ろしく殺風景に見えて驚く。和也が居ないだけで、目に映る世界がこんなにも変わってしまうのか。


いや、それだけじゃない。多分和也と喧嘩したからだ。たったこれだけでここまで落ち込んでるなんて、自分でも笑えてしまう。そのくらい和也の事が好きだと言う事か。


俺は間違っているんだろうか?大切だと思うからこそ、初めての夜を綺麗な思い出にしてやりたいと考えたのだが、それは俺の独りよがりなんだろうか?


大切過ぎて、抱く事が怖いと言えば、失望されてしまうかもしれないと思って言えなかった。本当は、俺の方こそ踏み出す勇気が必要だったのだ。


櫻井さんなら和也に変な気は起こさないだろうし、ましてや手を出す事もないだろう。それでも櫻井さんと談笑する和也を想像すると、いい気はしない。


「は、キリがないな……」


ふと、今日はまだシャーベットを食べていなかった事を思い出し、冷凍庫を覗いてみた。帰宅して早々に喧嘩してしまったから、食べるどころではなかったのだ。


キャラメル味の秋の新作は、もちろん相葉さんお勧めの期間限定品だ。甘さの中にほんのり苦味のあるソースが入っていて、深みのある大人向けの味。そして、色も断面も綺麗で飽きる事がない。


(一緒に食べたかったな……)


いつもなら、和とああだこうだ言いながら食べるから、最後の方はどろどろになって飲み干すぐらいの勢いなのに。シャーベットが溶けないうちに食べ終わるなんて、一体いつぶりだろう?


和也が帰って来たら、思っていた事を正直に話してみよう。失望させてしまうかもしれないけど、今ここで話さないと、俺達の溝は埋まらない気がする。それから後のことは、流れに任せてみよう。


食べ終わってカップを捨てようとした時、スプーンの入っていた袋に何か書いてある事に気付いた。何だろうと確かめ、思わず笑ってしまう。


Faight!←間違い


左の文字が相葉さんで、右の赤いのが櫻井さんだな。これを買った時はまだ喧嘩してなかったけど、最近言い合う事が多かったから、励ましてくれようとしたんだろう。


2人の顔を思い出して、胸がじんわり温かくなる。こんな風に優しさを差し出せる彼等が、とても眩しくて有り難かった。俺はその小さな紙袋の皺を丁寧に伸ばすと、財布のポケットに仕舞い込んだ。




つづく