*過去作のリメイク版2025.12.03
素敵な出逢いと言うのは、多分、ある日突然雨みたいに降って来るものなんだと思う。
「凄く綺麗な金魚だなあ……」
初めて僕の水槽を覗き込んだ時から、その人はとても優しい目をしていた。
「金魚なんて赤と黒ぐらいしか知らなかったけど、こんなに綺麗な色の金魚が居るんだ。黄色、いや、山吹、黄檗?違うな。う〜ん……そうだ!菜の花色!そうだよな?」
菜の花ってどんなのだろう?
わからないけど、この人が言うならそうなんだと思う。僕は頷いたけど、彼には伝わらなかったみたい。無理ないよね、だって僕は金魚なんだから。
「俺は大野智。よろしく、金魚ちゃん」
そう言って彼は僕に形の良い手を振り、足早に行ってしまう。たったそれだけのことだった。けど、その出逢いは、僕の心を奪うのに十分な出来事だった。
僕はその人に恋をした。
報われる事のない、決して叶わない恋だ。
『やめとけやめとけ』
『人間に惚れてもいい事なんざ無いよ』
他の水槽の仲間達は、とても冷たかった。当たり前だ。人間を好きになる金魚なんて、そうは居ない。
人間は僕達を育てて増やしたり、交配して新種を作ったり、お金を儲ける事しか考えていないから。
だけど、僕達は鑑賞される為に作られた生き物で、この運命に逆らう術はない。特に僕は、このアートアクアリウムの為に作られた品種らしい。
僕が恋した大野智と言う人は、このアートアクアリウムの夜間警備のアルバイトで、閉館後から朝までしかここには居ない。
僕は金魚だから話せないし、もちろん彼が僕に話し掛けて来る事も、あれ以来ほとんど無い。たまに水槽を覗いてくれても、にこにこしているだけで、すぐ見回りに行ってしまう。
このままじゃ、あっという間にアルバイトの期間が終わってしまう。せめて何かもう少し、彼との思い出を作れたらいいのに。
そう考えていた僕のところへ、呉服屋の女将が品物を詰め込んだ風呂敷を背負ってやって来た。
つづく