【翔】
『おかえり』から始まる展示は、順路に沿って歩いて行くと、いくつかの部屋でテーマごとに分けられていた。
『思い出』の部屋に入って作品を見ていると、あるひとつの作品を見て脚が止まった。何処かで見た風景のような気がするけど、この写真を撮った人は東京の人なのか?
最後の部屋は、『最愛』と言うテーマだった。しかし、その部屋に脚を踏み入れた途端、俺は目を見張る事になる。
「……な、んだ、これ?」
まさかと思った。そんなバカな、あれから何年経ったと思ってるんだ?自意識過剰にも程がある。だけどこれは、どう見ても……。
その部屋に展示されていた作品は、顔こそはっきり見えない角度になっていたり、分からないようにボカした加工がされていたが、全部同じ若い男性で、もしも間違いでなければ、モデルはすべて“俺”だった。
少し若い俺が、眩い光の中で、屈託なく顔をくしゃくしゃにして笑っている。見覚えのある物もあれば、想像なんだろうなと思う絵なんかもあった。
この個展の主は智史君だ。
智史君以外には撮れない、描けない俺が此処に並んでいる。『最愛』と言うテーマを掲げたこの部屋に。今頃どうして?
何故、こんな風に胸の奥が苦しくなるほど、愛しさが溢れて仕方ないような作品を今作れるんだ?これじゃあ、まるで今でも智史君が俺の事を想っているみたいじゃないか。
だって、あの後彼はすぐ他の人と付き合っていると聞いた。その人と海外に行ってしまった事も。俺の事なんて、そんな大して好きじゃなかったんだなと、そう思っていたのに。
部屋の最奥の展示室には、赤いビロード張りの宝箱のような物が展示室されていた。そおっと開けて中を覗くと、彼の手書きの手紙だった。
『飛翔するあなたへ
遠く懐かしく愛おしい人
今でもあなたを心から愛している』
「ーーーーんなとこで本音公開してんじゃねえよ。いの一番に俺に言うべきだろ。口下手にも限度ってもんがあるだろうが!マジ、馬鹿じゃねえの?」
悪態を吐きながら、熱いものが瞳に溜まって、溢れ出して行くのを感じた。コートの袖口で拭いても、それはまたいっぱい溢れて頬を濡らす。あんなに泣いて、もう彼の事で泣く事はないと思っていたのに。
鼓動が尋常じゃないほど早鐘を打つ。立っている事が辛くなって、俺は胸を押さえた。目の前が暗くなり血の気が引いて行く。マズい、このままだと……そこで、俺の意識はぷつりと途切れた。
つづく