【智史】




初心な恋人を焦らして、後から思い切り可愛がる。そんな、ちょっとした悪戯心のつもりだった。



1度目の翔ちゃんの反応を見て、もう一度そんな事をしてみたいと思った。ところが、2度目のフィッティングの後、翔ちゃんの態度は明らかに変わってしまった。



酷くよそよそしくて他人行儀になり、とても恋人とは思えない。



(マズい、何とかしないと)



と思っているうちに、どんどんメッセージや電話が減って行き、会えなくなって行く。会いたいと言っても会ってくれない。 



そうこうするうち、最後には会いたくないからとメッセージで別れを告げられ、俺は完全に振られてしまった。



《俺にはもう、智史君の事がよくわからない。けど、少なくとも、今の貴方が俺を大切だと思っていないことだけはわかったよ。もう傷付きたくないから会いたくない。今までありがとう、メッセージで申し訳ないけど、さよなら》



なんでこんなことになってしまったんだろう?

勿論、俺が悪い事はわかっている。けど、翔ちゃんはメッセージで別れを言うタイプではないと思っていたのに。そんなに会いたくなかったわけ?



色々と考えあぐね、落ち込んでいたある日。俺は、翔ちゃんが見知らぬ男と肩を並べて歩いているのを見てしまった。



それも、どう見てもただの友達ではなく、その男が翔ちゃんに惚れているのは、見ていると伝わって来るほどのものだった。



けれどそれは、悔しいと言うより、懐かしい光景に見えた。



初めて翔ちゃんを見掛けて、ずっと声を掛けようとタイミングを探していて、ようやく話せて嬉しかったあの日。



それから、偶然を装って何度か話し掛け、少しずつ俺は彼の事を知って行った。



あの頃は、あんなに慎重に大切に接していたのに。いつから俺は、自分の欲を優先していたんだろう?



彼が俺を意識してくれて、好きになってくれて、付き合えるようになって、本当に嬉しかったのに。



付き合い始めて、彼がどんどん俺の事を好きになってくれると、この人が自分のことをどんなに好きか、試すみたいなことをするようになった。



ちょっとの意地悪をして、彼を怒らせたり拗ねさせると、その顔がまた可愛いから。ついついそれを繰り返してしまう。



それから仲直りと言う名目で身体を繋いで、とろとろにした彼と愛し合う。そのエスカレートした形が、下着のフィッティングをした後の放置だったのだが。



それは、それまで積み上げた小さな意地悪を土台に、彼の俺への想いを、最大限に傷付ける行為でしかなかったのだ。



優しそうな青年の隣で、穏やかに微笑む翔ちゃんはとても幸せそうで、そう言えば、最近翔ちゃんのあんな笑顔見てなかったなと思ったら、情けなくてとてもじゃないが、何も言えなかった。








つづく