《 智 》
同室の新入り練習生、翔。
精霊のジニ、ことショウと同じ名前の、ひとつ年下の少年。
名前だけならまだしも、あまりにも瓜二つな顔立ちを目の当たりにして、彼はジニの生まれ変わりに違いないと思った。
ところが、彼には精霊だった頃の記憶がひとつも無いようで、俺に対してとても他人行儀だった。
それは後輩としてなら普通で、むしろ礼儀正しかったのだが、ショウの面影を探してしまう俺としては物足りなく、とても寂しいものだった。
けれど彼は、どうやら度々夢を見ているみたいで、時折何か寝言を口にしては飛び起きたりしている。
何の夢なのか気になってはいたが、さすがにそこまで確かめるのは憚られ、俺は詳しい内容を聞けずにいた。
ところがある日、櫻井が声を上げて飛び起き、俺に抱きついて来たのだ。
「サトシ様っ!!」
懐かしい呼ばれ方に、思わず抱きしめ返してしまう。そして、努めて冷静に声を掛けてみた。
「大丈夫か?」
「あれ?金色の馬は?」
彼は夢を見て酷く動揺しているようだった。
「落ち着け、ここがどこかわかるか?」
「……日本の、芸能事務所の、寮です」
「その通りだ。大丈夫そうだな」
「すみません。なんか夢を見て」
ジニ。
会いたかった。会いたかった。
会いたくてたまらなかった。
「櫻井、本当に大丈夫か?」
一瞬、櫻井が縋るような目で俺を見上げた。少し唇を傾けて寄せれば、すぐにでも触れそうな距離だ。
「大野先輩、貴方は?あ、いえ、何でもありません。大丈夫です。ご迷惑おかけしてすみません」
ちっとも大丈夫には見えないのに、櫻井は俺から離れて布団に潜り込んでしまう。彼の見ている夢の内容が少しわかって、俺の胸はどうしようもなく高鳴っていた。
金色の馬を見たのは、港に汽船が来ていたあの時だ。汽笛に驚いた馬が、俺を乗せたまま暴走したのを、ショウがもう一頭の馬に乗って並走。飛び移って手綱を取り、興奮して荒ぶる馬を止めてくれたのだ。
間違いない。櫻井はジニだ。
あの時、俺の最後の願いはギリギリで神に届いていたのだ。
しかし、肝心の翔本人は、まだ自分が見ている夢が“過去の記憶”だとは気付いていないようだった。
俺は待った。無理矢理何かコトを起こせば、せっかくの夢に何らかの影響を与えかねない。1話ずつ配信されるドラマを観るように、少しずつ進んで行く彼の記憶の再生を、俺はジリジリと耐えて待ち続けた。
つづく