《 翔 》
憧れていた芸能事務所のオーディションに合格して、渋る父を母と説得し、やっとの思いで入寮した。
これからのことを考えると、わくわくしてそわそわして、そして、ドキドキしながら教えられた部屋に向かっていた。
「ーーーー何でこんな新入りが大野さんと同じ部屋なんだよ」
“大野”と言うのは、同室になる先輩の名前だ。それを聞いて思わず脚が止まってしまった。だけど確かめてしまえば、俺はその相手に苦手意識を持ってしまう。そう思って振り向くのはやめた。
まだ何か俺に対する不満らしい声が聞こえていたけど、そんなことよりこれからのことだ。俺は張り切ってドアをノックすると、思い切ってそのドアを開けた。
その瞬間、乾いた熱い風が、俺を包み込むように撫でながら通り過ぎた。同時に、とても日本とは思えない異国情緒たっぷりの部屋が広がる。
「ーーーーあれ?」
思わずドアを閉めると、俺はもう一度ドアノブを回した。すると、半分雑然としていて半分シンプルな普通の部屋だ。
「何だ、さっきのは見間違いか。そりゃそうだよな。良かった〜」
安心したら、ドッと眠気が襲って来た。昨夜はあまり眠れなかったから。
何もない方のベッドに寝転がると、少しだけと思いつつ、俺の瞼は閉じて行く。何の匂いか、甘い香りが微かに漂っていた。
「おい!起きろ!いつまで寝てんだ」
声と同時に揺すられ、俺は慌てて起き上がった。すると、目の前に腕組みをした少年が立っている。
同じ事務所の中学生チームの子だろうか?日に焼けた肌が外国人みたいで、肩まで伸びた髪がとても似合っている。
まだ幼さの残るあどけない顔、少し太めの整えていない眉毛。つぶらな瞳と、それを縁取る長いまつ毛。
「……すみません。つい眠ってしまって」
ん?声がおかしいような。
「今日は午後から港に連れて行ってくれるんじゃなかったのか?」
「みなと?港って何処の?」
重い頭を上げ、ゆっくりと身体を起こす。そこでようやく、俺は少年の身なりがおかしな事に気付いて首を捻った。
「ラバトだろ?お前が言ったんだぞ、ショウ」
白い長袖の異国の服を着て、その少年はニカッと笑う。まるで陽だまりみたいな、いつまでも見ていたくなる、そんな笑顔だった。
つづく