それから、俺は大阪に転勤したのを機に、智との同居生活を始める。
ちなみに何故“同棲”と言わないのかと言うと、恥ずかしいのと、顔がニヤけてしまうからである。ほんと、締まりが無くなって大変だった。
高橋とは、変わらず友達としての付き合いが続いている。関西の暮らしが気に入った彼女は、近いうちに恋人を関西に呼んで同居することに決めたらしい。それは良いことだなと思った。
結局、俺は時々メガネをかけてニュースを読むようになった。その理由は、その都度違うのだけれど、そこに彼が絡んでいる率は、とても高い。
そうそう、メガネと言えば、同居を始めた記念とか言って、智がメガネを買ってくれたので、俺はそのメガネを着けてニュースを読む事も増えた。
ちょっと地味めなそのメガネフレームの“テンプル”の内側には、イタリア語で俺宛のメッセージが入っている。
“Restiamo insieme per sempre”
どうしてイタリア語なのかと訊いたら、「パッと見られてもわからない方がいいから」と彼は答えて、照れくさそうに俺の腕を引く。
この流れに乗ったら、もう引き返すことは出来ない。それはわかっている。わかってるけど、そんな欲に呑まれてしまいたいこともある。
「Restiamo insieme per sempre」
ずっと一緒に居よう
突然彼がその言葉を口にした。よく覚えたなあと感心する。本当に恋は人を変える、俺もそうだなと思う。
「Ovviamente」
もちろん
いつか言われるのではないかと思っていたので、用意していた答えを出すと、彼はいたく満足したようだ。つくづく調べておいて良かったと思う。
そんな訳で、俺は日々彼と仲間達に愛され、このメガネフレームに守られ、新しい暮らしを満喫しながら楽しく過ごしている。
3ヶ月後。
「翔ちゃん。親父が、またご飯食べに来て欲しいんやて」
「いつ行けるかなあ……朝でも良かったら、すぐ行けるんやけど」
「高橋さんも呼んでよ。お袋がまた会いたいって、もううるさくて……」
「それはちょっと相談しなきゃダメだな。メッセージでグループ作っとく?高橋に聞いてみるわ」
両親には申し訳ないけど、俺達が嫁をもらう事は無いので、高橋カップルの存在には、意外なところで助けられていた。
『今朝は櫻井さんに質問が来ています。時々チラッと見えるのですが、メガネのテンプルには何が書いてあるんですか?』
『よく見てますねえ。あれはおまじないみたいなものです。ご質問ありがとうございました。それでは、今日も気をつけて、素敵な1日をお過ごし下さい。大阪から櫻井がお届けしました!』
俺達の関西同居生活は、
今日も愛しく賑やかです。
おしまい
