戦争が再開し、攻撃が始まった。
「前衛“ツバメ”被弾!このまま特攻するとの事です!」
「何だと!?双眼鏡を貸せ!」
前を行く小型の艦が火を吹き、燃えながら全速力で敵艦に向かって行く。こうなると、もう誰にも止める事は出来ない。
「敵機襲来!2機がこちらに向かっています!!」
「ギリギリまで引き付けてから撃て!」
空から弾丸の雨が降る。その時、飛翔の甲板には二宮和太郎が居た。たまたま洗って干していた、包帯代わりの布を取りに行っていたのだ。
「危ない!二宮!!」
恐ろしく真剣な表情の総一郎に抱き締められたところまでは覚えている。けれど、その後のことを和太郎は覚えていない。
気付いた時には、両手のひらが真っ赤に濡れていて、それが総一郎の背中からの出血だと理解するまで、数秒を要した。
「……総さん?」
震える唇で、なんとか名前を呼ぶ。けれど、総一郎からの返事は無い。口元に耳を寄せ、呼吸をしている事だけは確かめた。
「すぐ止血するから」
慌てて持っていた布をかき集め、背中に当てて押さえる。布はみるみるうちに赤く染まり濡れて行く。このくらいではとても足りないようだ。
「も、いい。早く逃げろ。生きてくれ……かず」
「何言ってんだ。あんたが居なきゃ、生きてる意味なんて無いんだよ!立てよ!なあ、立てよ!」
和太郎は懸命に総一郎を助け起こそうとした。けれど、総一郎の身体には、もう立ち上がる力は残されていなかった。
「最期まで、側に、居られなくて……すまない。未来で、また、いつか……」
「未来って何年後だよ?言ってくんなきゃ、わかんないだろっ!西暦何年だよ!総さん!!」
弾痕の残る甲板に、和太郎の声だけが響いていた。
それから、いつまでも総一郎を離さない和太郎に潤ノ 介が声を掛け、小さな小舟を持って来て翔一と2人で総一郎を乗せた。葬送用の棺である。
和太郎は、医師として総一郎の死亡を確認した。そして、手拭いを湯に浸して彼の顔や手足を拭い、なるべく綺麗にしてから、自分の髪を少し切ると彼の胸の内ポケットに入れようとして、そこに入っていた自分宛の手紙に気付いた。
「もらっておくね。総さん」
夜を待って、総一郎を乗せた小舟は、黄金色の月明かりの下、静かに飛翔から出航した。
翔一は正装で敬礼し、総一郎を見送る。ほんの僅かの付き合いだったが、まるで旧知の仲のように良い男だった。もっと話をしてみたかったと、話せない今になって思う。
波音に紛れて聞こえる、見送る兵達の微かな嗚咽は、いつまでも途切れない。皆に慕われ、愛されていた軍曹との、惜別の夜であった。
つづく