「“櫻井翔一大佐と大野総一郎軍曹の道ならぬ恋?”大野さん、役者にでもなったんですか?だとしたら、とんだ大根役者だ」


艦内に貼られたビラを剥ぎ取り、大野に突っかかる若者が居た。航空班の松本潤ノ介である。


整備班の総一郎とは、愛機のことで関わる機会が多く、総一郎の頭の良さやその膨大な知識と勤勉なところだけでなく、整備の腕前も含めて全幅の信頼を置いていた。


なので潤ノ介は他の兵より総一郎について詳しく、また尊敬もしている。貼り紙を見て思ったのは、一見のんびりとして見える総一郎が、珍しく熱心に櫻井翔一と言う大佐の面倒を見ていると言う事だった。


「潤ノ介。大根とは酷いな。これでも少しはモテるんだぞ?」


「近所の婆ちゃんにでしょ?俺とはレベルが違いますね」


「またそんな生意気言って」


「大野さんこそ、まさか櫻井大佐に惚れたんですか?確かに、綺麗である事は認めますけど、大野さん好みかと言うと、ちょっと違う気がするんですよね」


「お前、それ他で言いふらすなよ」


「そのくらいわかってます。混乱を招くような事はごめんですからね」


「察しの良い知り合いが居て助かる。必ず生きて帰ろうな」


「もちろんです。ところで、大野さんの本当に好きな人って、もしかして白衣の似合う方ですか?」


「潤。お前、暇なら手伝ってけ。人手はいくらあっても足りないんだ」


「巡回の時間なので、それは出来ません。では、行ってまいります!」


「ちゃんと帰って来いよ」


「了解であります!」


飛翔から飛び立った潤ノ介の操る機体は、すぐ加速して小さくなり、水平線の向こうに見えなくなった。


「……いい腕前だなあ。離艦を見るだけで惚れ惚れするよ。あれは誰だ?」


「あれは松本潤ノ介です。櫻井大佐。彼の操縦の腕前とセンスは東國軍一とも呼ばれています」


「大野、何故肩を抱く?」


「このくらいしておかないと、噂に信憑性がつけられませんから」


「背に腹は変えられぬか」


「ちょっとは笑って下さい。可愛く」


「うるさいぞ、大野」


「あは、照れてる」


総一郎の言葉に戸惑い、頬を染める若き大佐を、総一郎は少しばかり愛らしいと思った。しかしそれは、恋慕の情ほど強い物ではなかった。




つづく